化猫 序の幕
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奥の間に縛られた状態で連れられた薬売りと薔
しかし二人とも慌てる様子もなく涼しい顔でただ平然と座っている
傍らにしゃがむ小田島はそんな余裕を見せる二人に警戒を怠らない
「動くなよ。さっきみたいに逃げ出したりしたら」
どうなるか…そう続けるつもりだった小田島だが、それを静かに遮って口を開いたのは薬売り
「せめて、奥にも札を貼らせてもらえませんか?」
「札ぁ?」
「今ならまだ、結界を張っておけば防げるかもしれない…」
「黙れ黙れ。そんなことを言って逃げるつもりだろ」
頭が固いのか聞く耳を持たない小田島に薔は小さく溜息を吐いた
未だに酒を飲み続ける伊國は何が面白いのか、笑いながら口を出す
「もっときつく縛ったらどうだ?そいつはおかしな体術を使うぜ」
伊國の言葉に納得し、実行する小田島
先程よりも更に縄で締め付けられる二人の顔に僅かだが苦悶の表情が浮かぶ
「ッ…、腕が折れちまう…」
「そりゃあいい、ざまぁ見ろだ!」
『…チッ』
小さく悪態を吐く薔の姿を見て伊國は笑みを浮かべた
今まで澄ました顔しか見せなかった薔にやっと人間らしい顔をさせられたことが余程気に入ったようだ
「荷物は調べたか?真央様は毒にやられたのかもしれぬ。おい、此奴等の荷物は?」
「こちらで御座います」
「開けろ」
「へい!」
弥平が持ってきた荷物を部屋の中央に置き、小田島と伊國が確認する
まず先に開けたのは、薔の挟み箱
「うぅむ…。大量の筆と紙に、墨、
『…顔料と岩絵具』
「毒ではないのか」
『毒だ』
「そうか、毒か。…何ぃ!?」
あっさり毒であることを吐いた薔に小田島は一拍遅れて驚いた
隠し立てするでもなく堂々とした薔に伊國は膝を叩いて笑い転げる
「貴様!毒なんぞ持ち込みおって!!」
「それで真央様を殺したのか!?」
『岩絵具の毒なんざ高が知れてる。大体、さっき"斬られている"と言っていただろ』
「そ、それは…」
勝山は先程自分が言った言葉を返されて何も言えなくなった
結局薔の荷物からは小刀すら出てこず、疑いの矛先は薬売りへと移った
一番下の引き出しを開けると、そこからは多種多様な薬が出てきた
「何の薬だ?」
「色々です。毒じゃありませんよ」
「"色々"か?」
続いて、下から二番目の引き出しを開ける
そこには変わった形をした弥次郎兵衛に似た物が大量に出てきた
「何だこれは…?」
「子どもの
「へっ…」
続いて開けた引き出しからは大量の本
中身は着物を肌蹴させて乱れ、交じり合う男女の絵
所謂、春画である
「おおぉ…ッ!」
「ん゛、ん…」
『………』
小田島が驚きと感嘆の声を漏らすのに対し、気まずいのか小さく咳をして先を促す薬売り
その横で薔は冷めた目で小田島を見上げていた
「これが最後か」
一番上で結んであった紐を解いて蓋を開けると、中から重厚な箱が取り出される
伊國が小田島を下がらせて重い蓋を開けると、中には怪しげな札を貼った不気味な刀が入っていた
キラキラと輝く宝石に相当な価値がありそうだが、柄の先にある鬼に似た装飾が盗人の下心を捻じ伏せてしまう
とても罪を犯して欲しいとは思えない刀だった
「おい!この刀は何だ!?何で薬売りが刀なんぞ持っている!」
「斬る為、ですよ」
「な、何ぃ!?」
「モノノ怪をね…斬るんです」
『!』
"モノノ怪を斬る"と言った薬売りの言葉に薔は眉をピクリと動かして反応する
それに気付く者は居らず、薬売りに周りの目が集まっているのを好機と捉えた薔は金色の目をツゥと横に流して耳飾りを軽く揺らす
キン…キンキン…
誰も居ない静かな門口に咲く紫の花_
キン…キンキン…
屋敷の奥から聞こえるとても小さな金属の音
何度かそれが聞こえたかと思えば、地面に描かれていたのと同じ蝶が門口にひらりと現れた
ヒラリ ヒラリ
数はどんどん増えていき、戯れるように舞っていたかと思えば何かの指示に従った様子で屋敷の中へと飛んで行った
更に、地面から絵と同じ花が一輪顔を出して夏の風に香りを乗せる
地面に描かれていた絵は、綺麗さっぱり無くなっていた…