化猫 序の幕
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客間で荷物を整理していた薔は、屋敷の空気が変わったことに気が付いた
気配を辿れば屋敷の人間の殆どが
恐らく輿がやって来たのだろう
薔は咄嗟に担ぎ棒を掴むと疾風の如き速さで門口へ向かう
耳を
ほんの僅かに遅れてしまった
もう手遅れだと分かった薔は走るのを止め、歩いてその場に近付く
先程まで自分の前で可憐に頬を染めて生きていた真央の
それに泣き縋り何度も真央の名を呼ぶ水江
取り乱す水江に更に縋る夫_
曲者はどこかと刀に手を掛ける若党_
同じく曲者を探し辺りを警戒する勝山と笹岡
しかし、相手がどういった類のものなのかを知っている薔は刀を抜こうとする小田島の前にスルリと現れ、柄を握って動きを止める
「!?お、お前は…!」
『騒げば死ぬぞ』
「何だと!?」
突然目の前に現れた薔に驚く小田島の横では、勝山が謎の男_薬売りに同じく刀を押さえられていた
「そちらさんの言う通り、これは曲者の仕事じゃない。しかも恐らく、
「お前は何者だ!?どこから入った!?」
「か、加世が勝手に!」
「あ、あたし…あの……」
「怪しい奴!」
混乱に混乱が重なり収集がつかない状態の中、薬売りはどこ吹く風で好き勝手に動いていく
「怪しいのは、その通りですがね…。このままじゃいけませんぜ、奥にも 早く結界を張らないと 危ない ですよ」
薬売りは門口の柱に折り畳んであった紙を貼る
柱に貼り付けられたら紙は次々と見たことのない文字が浮かび上がり、最後は不気味な赤色の目が描かれた
突然不審な行動を始めた薬売りに小田島が怒鳴る中、医者を呼べという勝山に対して杯を片手に持った伊國が冷静且つ非情な言葉を述べる
「おい、息がねぇんだろ?医者よりも坊主なんじゃねぇのか?な、そうだろ?」
「伊國ぃ…ッ!!」
あまりに惨い言葉を口にする伊國に、水江は怒りを爆発させる
狂ったように伊國の名と恨み言を叫ぶ水江を周囲が挙って抑えているが、水江の怒りと悲しみは勢いが増すばかりである
水江など眼中にない伊國は奇妙な札を貼る薬売りに目を細めた
「そこの、お前。何を…知っている?」
「まだ、何も…」
「"まだ"、か。お前はどうなんだ?画師。さっきから、そこで何か描いてるみてぇだが」
伊國が言う通り、薔は小田島の刀を押さえるのを止めて地面に筆を走らせている
筆には墨は疎か水も付けていないのに、サラサラと走る筆からはどういう原理か鮮やかな紫が出てくる
薔は何も答えないまま、静かに絵を完成させていく
そして出来たのは見たことのない紫の花と、それに群がる蝶の絵
筆を懐に入れてあった箱に仕舞う薔を見て我に返った小田島はすぐに薔を押さえつけた
「さては貴様、この男と共犯だな!?番所に突き出してやる!!」
そう言って腕を掴む小田島に薔は無抵抗で地面に押さえ付けられた
上から見下ろす伊國は薔の鋭い目を見て薬売り同様の反応をする
「…お前も、何か知っているな?」
『………』
「ふん、だんまりか。こりゃいい。ふ、ふはは、ひゃはははははは!ひゃははははは…!」
屋敷に響く伊國の笑い声
それに隠れて聞こえる、薬売りの荷物の中の何かの音と
「ほぉ……」
小さな、薬売りの感嘆の声
これはまだ、怪奇話の序幕に過ぎないのである