化猫 序の幕
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蝉が語るは夏の夕暮れ
豪奢な襖に仕切られた部屋に座る花嫁装束に身を包んだ美しい娘
向かいに座るは、静かに…だが素早く筆を走らせる一人の若い
白い紙に次々と色を足して描かれる花嫁の姿絵に、屋敷の者一同は感嘆の息を零すことしか出来ない
カタン…
『…出来上がりました』
筆を置き、終始紙に向けられていた顔を上げた画師の眼差しに花嫁は思わず頬を染める
長い烏の濡れ羽色の髪を頸の後ろで束ねて背に流し、鋭くも妖艶な色気を放つ金色の瞳が花嫁の身も心も射貫く
両耳に付けられた螺旋状の不思議な形の耳飾りが小さくキンと音を鳴らす
画師は完成させた絵を花嫁_
「おぉ、おぉ…!なんと、美しいこと…。真央、ご覧なさい」
「まぁ…素敵」
両者から満足の声が聞けたのを皮切りに、家臣の二人_
「まるで真央様が紙の中に入り込んだが如く…。いや、実に素晴らしい」
「なんと鮮やかな牡丹であろうか。真央様の美しさを表すに相応しい花だ」
『…恐悦至極に存じます』
凛とした品格を感じさせる独特の声で答えた画師は一度頭を下げると早速道具を片付け始める
画師がこの屋敷に来たのは、単純に坂井家当主の依頼だからである
塩野家に輿入れする一人娘の晴れ姿を絵に残したいという依頼を、偶然近くの宿に泊まっていた流れの画師が応えたのだ
道具を飛脚の荷物入れに似た漆塗りの見事な重箱に仕舞い、居住まいを正した画師に水江が微笑みながら礼を告げる
「此度の絵、見事であったわ。勝山、褒美を」
「はっ」
勝山は事前に告げていた額の報酬が入った小袋を画師に渡す
ずしりと手に乗る重さにも画師は動じず、ただ静かに受け入れる
『…確かに』
「部屋を用意しましょう、今夜は屋敷でゆるりと休みなさい」
『それは、流れの画師には過ぎたる褒美かと…』
「構わないわ。これ程の逸品を描ける画師をこれだけの礼で帰していては坂井の名折れ、分かるわね?」
『…では、お言葉に甘えて』
再び頭を下げる画師に満足した水江は奥女中_さとに客間へ案内させる
一礼してから去る画師を真央は最後まで熱い眼差しで見つめた
さともまた画師の
それを面白くなさそうに見ながら杯を傾ける坂井家当主の兄_
「…フン、たかが画師如きに部屋を用意するたぁな」
ぐびりと酒を仰ぐ伊國を睨む水江の様子から険悪な仲であることは他者からも一目瞭然
そしてそんな二人を傍観、もしくは関わらないようにする周りの人間達
この屋敷の歪な関係がありありと伝わる光景である
『………』
客間で静かに出された茶を啜る画師
その金色の瞳が妖しく光ったことを知る者は
誰も居ない