化猫 二の幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
化猫の瘴気に当てられた薔は朦朧とする意識の海を流木のように揺蕩う
聞こえるのは
――ねこねこ…いいこ…いいこ……
――いつか、お前は……ここを出て…
――そして、自由に……
「画師殿!!」
『ッ!!』
我に返った薔の目に映ったのは、自分の両の肩を掴んでいる薬売りの必死の形相
その横には加世と小田島が様子のおかしい薔を案じて傍に控えている
周りを見れば、水江と勝山だけでなく伊顕も姿を消していることから最悪の結果を知った薔は拳を握り締めて己の無力さを恨む
意識を化猫とは違う何かに引っ張られている間に、状況はどんどん悪い方向へと進んでいく
『ゲッホ、エホ…!ハァ…ハァ……』
「画師さん!?」
『ッ……ハァ…大丈夫だ…』
意識が安定した薔を加世に任せ、薬売りは先程見た庭の女について坂井の人間に問う
あれこそが真の一部、理の形であると
「奥方は、"珠生殿"と呼んだぞ。他の誰も、娘のことを知らないのか?」
変わらず冷静に話し続ける薬売りだが、悠長に話している時間はあまり無い
化猫の瘴気に札が消され、一部屋結界が破られたのだ
ここまで来るのに、そんなに時間は掛からないだろう
未だ退魔の剣を抜く様子がないことに焦った笹岡が早く抜けと急かすが、退魔の剣に意思があるのか薬売りは剣に聞けと言う
剣は形以外をまだ得ておらず、薬売りの話が本当ならまだ抜くことは出来ない
「最も、刀を抜いたとしても モノノ怪の力に勝てるとは限らないがな」
「な、何だと!?退魔の剣と言ったではないか!!」
「剣を操るのは、人間だ」
二番目の結界も破られ、布団を被って怯えていた伊顕も化猫に取り殺された
残る結界はあと一枚
「俺の技量には、限界が ある」
札が化猫の身体と同じ色に染められていくのを睨んだ薔は、懐に入れてあった小豆を襖に向かって投げる
バチバチバチバチィッ!!
「ひいいぃ!!」
「きゃあああぁ!」
「な、何だ!?」
周囲の悲鳴や戸惑いも放置して薔は懐に入れておいた小豆入りの袋を取り出し、中の小豆を節分の豆まきの要領で投げる
青白い稲光が襖全体に走り、化猫の瘴気を食い止めているのだ
小豆の邪を払う力は薬売りの想像を遥かに超えており、それをやってのけた薔に瞠目してしまう
『俺が時間を稼ぐ!
何度も何度も侵入を試みる化猫を小豆で追い払う薔の言う"奥の部屋"
それには加世と小田島、薬売りを除く四人が血相を変えて驚いた
化猫を見るのと同じか、それ以上の恐れの念を薔に抱き、後退る
「な、何故お前がそれを…!?」
『僅かだが風が通る音がする!早くしろ!!死にてぇのか!?』
伊國に再び吠える薔の手にある小豆に限りがあることぐらい誰でも分かる
ここに居ても仕方がない、そう自分に言い聞かせた伊國は壁にある赤い花の絵に付けられた取っ手を引っ張った
花の形をした
パタンパタンと壁が裏返り、やがて巨大な一枚の女の壁画に変わった
壁画は床に響く重厚な音を奏でながら天上へと上がり、その先にある隠し部屋への道を開ける
隠し部屋から流れ込んできた空気に隠れた常人には感知出来ない薄さの匂いに、薔は顔を顰めてまた小豆を投げる
『そうか…ッ、これが…お前の恨みの根源か……!』
グオオオォォォォォオオオッ!!
まるで、薔の言おうとしていることが正しいのだと、その通りだと答えるように化猫は鳴いた
鳴く、と言うよりも最早吠えるに近いその声が意味する出来事を想像した薔の胸の内側を、
小豆も結界も無くなった襖から化猫の気配が無くなったが、油断出来んと薔は周囲を睨み続ける
棍棒を構えて迎え撃たんとする薔の後ろ_隠し部屋に続く階段から、さとの絶望を助長する狂った笑い声が聞こえた
「無駄よぉ!無駄無駄無駄ぁ!!どうやったって逃げられないんだわ!!」
「――知って、いるんだな」
低く冷淡に聞こえる薬売りの言葉にさとは笑うのを止めて、恨みの籠った低い声で吐露する
崩れ落ちたさとからはもう、生き延びたいという力が見当たらない
「あんた達の所為よ…」
一方、隠し部屋に進んでいた加世と小田島の前には美しい純白の花嫁衣裳が飾られていた
こんな部屋に何故花嫁衣裳があるのかと小田島が聞いても誰も答えない
いや、答えたくないという様子である
花嫁衣裳を見た加世は何か引っ掛かるものを感じていたのだが、その答えに今漸く気が付いた
「あぁ!これさっき、モノノ怪が着てた…!」
「あんた達男共が、モノノ怪を呼び寄せたのよぉ!!!」
加世達の目の前にあった衣装は白から不気味な赤に染まって跡形もなく消え、壁を伝って薔が睨む襖へと移動した
そこに現れたのは、姿形を歪ませながらも目を爛々と光らせて獲物を狙う、かつて誰かに愛されただろう猫の哀れな変わり果てた姿である
化猫の前には薔が立っているのに、その目の先に居るのは悠然と座り化猫を見据える伊行ただ一人
それが何を意味するのか、薬売りには理解出来た
「そうか…。化猫の真は、あんたか!」
カチン
これで残るは、理のみ