化猫 二の幕
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「人の縁と因果が巡って、モノノ怪を成す。その真と、理を聞かせてもらいたい」
部屋に仁王立ちする薬売りの請いとは呼べない強い言葉に一同口を噤んでしまう
それらを代表して勝山がずっと気になっていた言葉の意味とその理由を問う
「何だ、その"真"と"理"と言うのは?何故話さねばならん?」
「真とは、事の有り様。理とは、心の有り様」
「だから何だ?」
「何かがあり、何者かが、
「何故に、か?」
部屋の隅で胡坐を掻く薔は話を聞きつつ周囲の警戒をする
薬売りと事前にそう話してあったので、薬売りも集中している薔の邪魔をせずに話を進める
「一つ、何故 この家には、猫が居ない?誰かが何かを猫にしたんだ。それは何か…」
「猫の恨みが人に
「分からんよ。だが、モノノ怪は確かに居る」
「でも、恨みって…。だって、台所に入り込んでくるから…。水掛けたり追っ払ったりしたけど、でも…だからって恨むとか祟るとか、ね?ないですよね?」
「分からない」
「どうして?そんなことぐらいで…」
『他人の物差しと、自分の物差しが全て同じだったことはあるか』
集中していた薔が口を割って入ってきたことで視線は全て薔に集まる
変わらず結界の外に神経を張り巡らせているが、薔は未だに恨まれることの理不尽さを知らない一同に説明する
「え…?」
『人に限らず、森羅万象にはそれぞれの物事を測る物差しがある』
「物差しだぁ?」
『人が言う所の"普通"だ。だがその普通も十人十色、千差万別…必ずどこかで違うものがある。その違いを善いものと受け止めるか、
言うだけ言って再び警戒に集中し始める薔の言葉に周りの者は言葉を失くした
言われてみれば分からなくはない
だが身に覚えのない恨みで祟り殺されるなど真っ平御免だと顔を顰める
「画師殿の言う通り、モノノ怪にはモノノ怪の理がある。それは、俺達の腑に落ちるものなのかどうか…。逆恨みっていう言葉があるように、道理や辻褄なんぞ、必要ないのかもしれん」
「そんな…。だって、もっと酷いことをした人だって居るのに!」
加世が語気を強めて告げたのは、さとがこっそり猫を買っていたという事実
さとは焦った様子で弁解を述べる
「猫を買う?」
「あれはお金を払っただけで何もしていません」
「で、その猫は?」
「私は知りません!猫がどうなったかなんて…。弥平が全部やったんですから」
「その金は誰の金ですか?」
その問いでさとはそれまでペラペラと喋っていた口を急に閉ざして黙ってしまった
薬売りが無理に話さなくても良いと言い終る前に、自分は悪くないからと結論付けてさとは全て話した
「笹岡様です!笹岡様が私に猫を買い取るように言って、猫は弥平が連れて行ったから知りません!」
名を出された笹岡は理由を話そうかどうかと迷い口を濁すが、そこに伊國が何が面白いのか愉快な調子で話した
「斬ったなぁ、へへへ。なぁ?二十匹は斬ったか?」
「何てことを…」
見世物の試し斬りに猫を使ったと伊國は狂喜の笑みを浮かべ、聞いてもいないのに斬った時の感想や猫の身体について話す
加世もまさかそんな事になっていたとは夢にも思っておらず、口を押さえて悲しんだ
「失礼ながら伊國様、それは非道の行いではありませんか?笹岡殿、何故お止めにならなかった?諫言も臣下の役目!」
「では犬を斬れと?」
「そういう話ではない!」
「批判をするなら代案を出すのが礼儀でありましょう。勝山殿のそれは不平不満の類に過ぎぬ」
「不平不満だと!?」
猫の話からどう転がったのか坂井家当主の後押しの話になってしまった
どうでもいい話を繰り広げる臣下二人の会話を拾っていた薔は苛立ちから舌打ちを零して棍棒を強く握る
いい加減殴って黙らせようかと物騒な考えが頭を過ぎるが、ご隠居_
最もらしいことを言って黙らせた伊行を片目だけ開けて盗み見た薔は今まで一番顔を険しくして部屋の奥を睨む
誰にも…地獄耳である薬売りにすら聞こえない程小さな小さな声でぽつりと独り言ちた
『………食わせ者が』