小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

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  • 私はそれでも笑うのです

    20180712(木)03:33
    私が例えばもっと我儘だったら。
    この世界は、いえ、貴方は幸せだった?


    「貴方に生きて欲しい。それが私の願いだわ」

    「君が居ない世界なんて間違っているっていうのに?君はそれでもそんな酷いことを言うの?」

    「ええ、私は酷い……酷い魔物だから」

    「……嘘つきだなぁ、君は」

    泣き出してしまいそうな顔を向けられて、私は少しだけ悲しくなった。
    少しだけよ。本当よ。

    「君が生きていない世界なんて、僕にとったら価値なんてまったくないのに」

    「それでも、生きて」

    私は精一杯の笑顔を向けて、彼に向かって腕を広げた。
    さあ。ここを刺せと言わんばかりに胸を張る。
    彼は持っていた剣を迷いなく構え、私の心臓に当てた。

    「君を心から愛してる」

    「奇遇ね。私も貴方を愛していたわ」

    そう言った瞬間。
    一瞬の迷いもなく突き立てられた剣は、私の心臓を難なく止めようと深く、深く、突き立てられた。
    きっと私が少しでも苦しまないようにしてくれたのでしょうね。
    それはとても。とても、嬉しいわ。

    『勇者』と『魔王』

    そんな関係でなければ、私は貴方を泣かせることは無かったのかしら。
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    散文

  • 嘘つきが吐いた嘘

    20180621(木)19:23
    出来れば最期くらいはアナタの腕の中で死にたいものよねぇ。
    そうチェシャ猫のようだと称される笑みを浮かべながら言ったなら、彼は酷く険しい顔をした後にアタシの脳天にチョップをかました。
    地味に痛い。

    「俺で遊んでいるのか」

    「いいえ?事実を述べただけよ」

    「死ぬとか、なんだとか、そういったことを気軽に口にするのはやめろ」

    「そうねぇ、でも、それが事実なんだもの」

    アタシが死ぬとき、それはアナタの腕に抱かれた時が良いわ。
    アドルは険しい顔のまま、アタシを押し倒す。
    アタシはアドルの首に腕を回した。

    「嘘つきが」

    耳に吐息と共に吐かれた言葉にぞわりと背筋が震えたような、そんな感覚を得た。
    アタシは否定も肯定もしない。
    その代わりにキスをねだれば、可愛らしいとは程遠い荒々しい口付けが降ってきた。
    アタシはそれを甘受しながら「明日は晴れると良いわねぇ」なんて、キスの合間に呟いた。
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    連作幕の外

  • 天魔界事変

    20180620(水)23:14
    「きっと僕は君に出逢う為に創られたんだね」

    「馬鹿ですか」

    そう告げた私の声は凛としていた……筈だ。

    「私に逢う為に創られたと言うのならどうして、」

    どうして貴方は――

    その先の言葉は続かなかった。
    骨と皮だけの彼が、その蜂蜜色の瞳が、強く輝いていたから。
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    連作幕の外

  • 天魔界事変

    20180612(火)21:16
    「魔王さま!」

    「その声はアグリですね? 良く一人で遊びに来れましたね。父上殿の許可は得ているのですか」

    執務中、唐突に背後から何者かに抱き着かれて私は少しだけ前のめりになります。
    まあ、気配で誰かは解っていましたけれども。
    灰色の髪に紫の縦に割れた瞳孔を持つ幼い少年がそこに立っていました。
    凛と伸ばした背は、「魔王様をお守りする立派な悪魔へと育てます!」と宣言され、実行されている賜物か。
    この子が私の側近である女悪魔の胎に宿った時からこの子の道は決まっているようで、私には少しだけ心苦しくもありました。
    けれども、

    「魔王さま。お仕事が終わったらぼくと遊んでくださいませんか?」

    「両親のどちらにも許可を得ていないのですね。――仕方がありません、超特急で仕事を終わらせますから少しだけ待っていてくださいね」

    しかし私にとってアグリは大切な部下の子ながら弟のような存在だと勝手に認識しています。
    とにかく可愛くて仕方がない。
    この子の可愛いおねだりに応える為、今日も私は最近になって大人しくしているようで結局遊び惚けている蛆虫、ああ、間違えました。
    神の起こした魔界での不始末を一秒でも早く片付ける為に机に向かうのです。
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    連作幕の外

  • 魔導書館は変人ばかり

    20180612(火)21:16
    自分の名前が咲良だからか?昔から花植物には変な親近感があった。
    風で折れたであろうその花の枝を諸事情あって今の住処であり就職先でもある場所に飾ろうと持ち帰ってみた。

    「壱乃さん。花瓶ってありましたっけ?」

    「まぁまぁ、咲良さんたら。……そんな可愛らしい方をかどわかしてどうなさられたのです? 天蔵さんでもあるまいし」

    「おぅおぅ壱乃ちゃぁん? おっちゃんがどうしたって?」

    「可愛らしい方?」

    天蔵さんを当然のように無視して、俺は首を傾げる。
    壱乃さんはいつものようにゆったりと微笑むと、その綺麗な白い指先を俺に向けた。

    「咲良さんの手に持たれている紫陽花の枝木で御座います」

    「これがどうかしたんすか?」

    「それに必死に憑いているのですよ。花の精霊が」

    しかも生まれたて。嗚呼、珍しいですね。

    感心したような言葉を吐く壱乃さんは「花瓶に飾るよりも元在った場所に返してあげてくださいな」と柔らかく微笑んだ。
    俺もその通りにした方が良い気がして、視えない精霊とやらを元居た場所に返しに行ってやろうと踵を返す。
    その前に、「ああ」と声を出した。

    「ラスクさんが今夜来るそうですよ」

    「まぁまぁ。一昨日もいらっしゃられましたが……異端審問官様はそんなに魔女の元に来るのがお好きなので御座いますかねぇ」

    「ただ単に壱乃さんに会いに来たいだけだと思いますがね」
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    連作幕の外

  • 年末/灰青の音色

    20180423(月)20:15
    灰青の音色
    大河×瑠璃葉


    「年末やね!」

    「何を嬉々としているのかしら?」

    「いやぁ、瑠璃葉と出逢ってからほんまに幸せな1年やったなぁ!と」

    「……貴方は阿呆なのかしら?」

    「ええー。年末にまで阿呆呼ばわりなん?」

    「当然のことを言ったまでよ。貴方は阿呆なのだもの」

    「アホアホ言うなやぁ。しまいにゃへこむで?」

    「好きにすれば良いわ」

    まあ。でも。

    「私も貴方と過ごすのは嫌いじゃないわ」

    「……」

    「大河くん?」

    「……いつか、俺だけやなくてお前にも俺が好きやって言わせたるさかい覚悟しときや!」

    「それは有り得ないわね」

    「ふふん。そう言えるんも今のウチやで!」

    「期待しないで待っているわ」
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    連作幕の外イベント事

  • 年末/冬が哭いた日

    20180423(月)20:14
    冬が哭いた日
    冬彦×陽葵


    「ふーゆひこくん!」

    「なんだ」

    「年末も休み無しでお仕事で忙しい冬彦くんの為に、気持ちを込めて作ったお弁当を持ってきましたー!ちなみに8割は憐れみで出来ています!」

    「最後の一言が要らないし、あと2割は何なんだ……」

    「そうですねー……強いて言うなら優しさです!」

    「嘘くさい」

    「嘘ですから」

    「お前と話していると頭が痛くなるな」

    「もー。冬彦くんったら照れ屋さんなんだからぁ」

    「誰が照れ屋だ。俺は呆れてるんだよ」

    「ふふん。まあ、何だって良いですよー。とりあえずわたしの任務は冬彦くんへの労りついでに胃袋を掴めお弁当を作ることですからね!任務成功です!」

    「お前に胃袋を掴まれた覚えはない」

    「律儀に冬彦くんの苦労を知らずに好き勝手している婚約者さんに操を立てている冬彦くんって、見ていて逆に面白いですねー」

    「何を不機嫌になっているんだ?」

    「何ででしょうね?」

    「訊かれても困る」

    「とりあえず冬彦くんは少しだけでも休息を取ってくださいねー。死んじゃったら元も子もないですから!」

    「妙にいい笑顔で不吉な発言をするな」
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    連作幕の外イベント事

  • 年末/白い龍に陽の華

    20180423(月)20:12
    白い龍に陽の華
    白龍×陽華


    「白龍様。こちらの書類にサインをお願い致します」

    「ああ」

    「白龍さ……いえ。なんでもありません」

    「なんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」

    「……恐れながら申し上げますが、この仕事量をあと数時間で終わらせる気ですか」

    「部下の不始末はトップである俺の不始末だ。片付けるのも当然だろう」

    「失態をその命を以て償わせたとして、その命を奪う前にあの者に書類仕事をさせれば良かったのではないでしょうか」

    「出来るものがやればいい。そして失態を犯した人間に大事な書類を任せるほど、俺は優しくはない」

    「……白龍様はお優しいです」

    「何か言ったか?」

    「いえ。何も」

    「そうか」

    痣だらけ、傷だらけ、包帯だらけの私だけれども。
    白龍様は私を傷付けても、見捨てることだけはしない。
    それは私にとっていつ捨てられるか分からない恐怖でもあり。
    それは私にとっての甘美なる感情でもある。

    (お慕いしております。白龍様)
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    連作幕の外イベント事

  • いとしいとしとさけんだこころ

    20180423(月)20:03
    SS3『いとしいとしとわめくはこころ』



    「蛇、へび」

    「……なんですか」

    「ああ、蛇。そこに居たんだね」

    「私は貴方の側に縛り付けられていますからね」

    「ふふ、そうだね」

    老いてもう見えない目で蛇を感じる。
    蛇は変わらず、きっと美しい。
    優しい神様だから僕の側にずっと居させてしまった。
    ごめんね、なんて言わないよ。
    僕は僕の願いの為なら、何だってするのだから。

    「ねぇ、蛇。僕は死ぬのかい?」

    「ええ、半刻もすればきっと」

    「なら、『いつかの僕』に託そうか」

    「はい?」

    「こっちの話」

    眠たい眼をぱちくりとさせながら、僕はゆるやかに言葉を発した。
    きっといつか、僕達の間に出来た子のどれかが僕の魂を継ぎ、蛇を永遠にモノにするのだろう。
    何代経ても構わない。
    きっと蛇の心を手に入れる。


    ねぇ、蛇。


    「あいしていたよ」


    ただ、お前を愛していただけだったんだよ。
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    続かない筈だったその後

  • たとえば、

    20180423(月)20:00
    短編(現代)『たとえばなし』


    たとえば、

    お前の柔らかな髪だとか。

    たとえば、

    案外、気の強いところだとか。

    たとえば、

    涙もろいところとか。

    たとえば、

    笑った顔が結構可愛いところだとか。


    そんなところ全部含めて、好きだった。


    そんなこと言われても、もう遅いんだけどなぁ。
    大きな腹を優しく撫でながら困ったように笑う彼女がそう言ったかのように聞こえた。
    そうだな、と俺も困ったように返す。

    こんな例え話はどうしようもねぇよな。
    だってお前は、もうこの世界の何処にも存在してねぇんだから。
    この世界に存在する筈だったその腹の命すらも、生まれる前に消えてしまったのだから。

    「なあ、」

    なあ。これが都合の良い夢だと知っているから言うけれども。

    「もっとお前を大事にしてたら、お前とそいつと三人で、幸せになれたかな」

    「どうだろうねぇ、わからないなぁ」

    返事があって驚いた。
    けれど、ああ、これは都合の良い夢だからかと、そう気付いたら涙が出そうになった。
    泣く資格なんて俺にはないのに。

    「好きだよ」

    ずっと昔から、好き、だったんだよ。
    もう遅すぎて伝えられない言葉だけれども。
    彼女は柔らかく微笑んだけれども、何も答えてはくれなかった。
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    続かない筈だったその後