小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 煤くれた空

    20181027(土)21:39
    十字に組んだ木に身体を縛られる。
    アタシは今日、死ぬ。
    魔女裁判にかけられてしまったから仕方がないのだけれども。
    何せ本物の魔女であるアタシが死ぬのだ。
    普通の人間だったら耐えられないだろう。

    「何か、言うことはないのか」

    何かを言って欲しそうな男に、アタシは微笑んだ。
    男は異端審問官で、神にその身を捧げた人間で。
    今更懺悔して助かるとは思っていないし、ここでアタシと男の関係がバレれば彼にも迷惑がかかる。
    群衆の中で、アタシはただ男を見て、「いいえ」と笑った。

    嗚呼、火が灯された。
    痛いし、苦しいけれども。

    (そんな顔された方が、ずっと痛いわ)

    私を異端審問にかけた張本人のくせに。
    狡い男ね、とアタシは笑って空を見上げた。
    煤くれたような色の空だった。
    空でさえアタシを歓迎していないなら、アタシが死んだあとは何処に行くのかしらね?
    なんて、呑気なことを考えて。
    男のつらそうな顔から目を逸らした。

    散文

  • 花束

    20181027(土)20:41
    花束を手に持ち、俺はそこに立っていた。
    灰色の石を目の前に何を想うでもなくただソレを見つめて。

    「なあ、」

    呼びかけるように発した声は、果たして誰に伝えたかったのか。

    「俺はまだ、この花を供えることは出来ないみたいだ」

    自嘲するように笑って、花束を抱えたままその場から背を向ける。
    見上げた空は青く、晴れ渡り。
    あまりに綺麗なその色に、思わず目を細めた。

    散文

  • ただ、一言(BL)

    20181024(水)11:51
    彼は最期に言った。

    「お前のことが嫌いだった」と。

    何かを諦めたように、今にも泣きそうな顔で。
    それはどうにも「嫌い」だなんて顔じゃなかったけれども。
    俺は何も、何も言えなかった。
    答えるのが怖かったのだと気付いていた。
    一言言えていたならば。

    『俺もお前が好きだったよ』と。

    散文

  • 凉やかな冬【烏】

    20181011(木)20:23
    「お前様」

    「なんだ、凉乃」

    ちょいちょいと手招きをされて、私は首を傾げながら寝台の縁に座っている妻に近付く。

    「赤が出来たよ」

    「赤?」

    「嗚呼、そうさね」

    耳慣れない言葉に再び首を傾げれば、凉乃はにんまりと笑って言う。

    「子が出来たのさね」

    「……誰の、」

    馬鹿な質問をしたとも思っているし、私以外にそんな相手が居て欲しくないとも思うのだが、脳内があまりの出来事に処理出来ていない。

    「お前様の子だよ、ヴェル」

    「……そ、うか」

    そうか。私の子か。そうか……。

    「何泣いてんだい。可笑しな男だねぇ」

    「私にも分からないが、こんなにも嬉しいことなのだな」

    「お前様なら喜んで貰えると思っていたよ」

    ふっと笑った凉乃を、私は思わず抱き締めていた。

    「ありがとう、凉乃」

    このいとしい命を。
    大事にしていくと、決めたのだ。

    連作幕の外続かない筈だったその後

  • ご主人と吸血鬼のエイプリルフール

    20181009(火)19:16
    「ご主人~。今日は嘘をついても良い日なんですよ!」

    「何ワクワクした顔してんだお前は」

    「ふふふ。ご主人にどんな嘘をつきましょうかねー」

    「嘘って分かってたら意味ねぇだろ」

    「……ご主人」

    「なんだ?」

    「どうやら私……大切なご主人に嘘なんてとてもつけそうにないことが分かりました!」

    「……そぉか。そりゃ良かったな」

    「なんででちょっと嬉しそうなんです?」

    「なんでだろうなぁ?」

    連作幕の外イベント事

  • 天魔界事変

    20180927(木)00:04
    きみが居たから僕は笑えた。
    きみが居たから僕は寂しくなかった。
    きみが居たから僕は優しさを知った。
    きみの存在で回っていた世界が、きみのお陰で広がった。
    ありがとう。愛しているよ。
    僕が好きになったただひとりの可愛い女の子。

    「好きだよー!魔王!」

    「蛆虫の戯言が聞こえました」

    「本音ですぅー!」

    連作幕の外

  • 【烏】涼やかな冬

    20180926(水)23:59
    愛娘が軍に入る際に贈ったのは大事に仕舞っていた煙管。
    この世で一番愛しい妻が愛用していた煙管だ。
    それを渡したら驚いた顔をされた。
    けれども何も言わずに煙管を受け取る娘。

    数年後。たまたま見付けた紫煙をくゆらせる娘の姿が妻にそっくりで。
    当たり前かと小さく笑った。

    連作幕の外

  • 天魔界事変/­葡萄­

    20180912(水)19:38
    「この!黒光りした美味しそうな粒!香りからもかなりの糖度と分かります!どうしたのですか?賄賂ですか、神」

    「賄賂じゃないよー。まあ、ある意味賄賂だけどー。丁度女の子に葡萄貰っちゃったけど僕が食べるより魔王が食べた方が葡萄も幸せかな?って思って」

    「……へぇ、女の子、ですか」

    「ん?なんか機嫌悪い?」

    「いえ。相変わらず屑ですね、蛆虫」

    「なんで!?僕、葡萄あげただけなのに!?」

    「それは置いておいて美味しいです」

    「色々言ったけど食べるんだ……」

    「食べますよ。食物を無駄にしてはいけません」

    「ふふ。魔王が食べてる姿、可愛い」

    「……ふんっ」

    「目潰し!あっぶな!僕じゃなかったら避けられなかったよ!?」

    「ッチ」

    「舌打ち良くない!」

    連作幕の外

  • 冷たくなっていく躰に縋り付いて

    20180911(火)23:37
    ねぇ、神様。
    あなたがもしこの世界に居るのなら、どうして僕のこの手は愛おしい人の血で濡れているの?
    どうして彼女は紅い華を咲かせながら倒れているの?
    何故、どうして。
    そんな感情ばかりが頭を過ぎる。
    彼女が一体何をした?
    彼女はただ、世界の取り決めの通りに『魔王』という役柄を得ただけの、魔力が強いだけの、普通の女の子で。
    異端児されていた僕にも笑いかけてくれるような、優しい子で。
    なのにどうして。
    現実はこうも残酷なんだ。


    魔王城に響き渡るは、慟哭。
    君の居ない世界になんて興味がなかった。
    君だけが居れば幸せだった。
    けれど君を殺したのは――僕だった。


    愛していたのか。
    ただ、好んでいただけだったのか。
    今となっては分からないけれども。
    冷たくなっていく、温度のない躰に縋り付いて泣いても、君の優しい手は僕の頭を撫でてはくれなかった。

    散文

  • きみの隣で死ぬために、生きてきた気がする

    20180823(木)16:40
    ぽたり、ぽたり、と紅い華が地面に落ちる。
    ああ、これまでか。なんて思いながら僕は目の前のきみを見る。
    きみは息も絶え絶えといった風で、当然か。
    僕がきみをこの手で国王から渡された剣で突き刺したんだから。

    「ねえ、生きてる?」

    「ええ、辛うじて……」

    「そっか。ごめんね。ちゃんと一撃で殺してあげられなくて」

    「……構いません。これも、国王……あの人の願いならば……私は喜んでこの命を天に返しましょう」

    「どうして、そこまで思えるのかな」

    自分の妻を殺せと命じた男のことを、どうして。

    「わたくしにも分かりません。ですが、これもまた運命なのでしょうね」

    ゆっくりと息を吐くきみは儚くて。疲れたように瞼を閉じるきみは切なくて。頬に陰った睫毛はあまりに美しくて。

    「僕が一緒に行ってあげようか」

    「え、」

    「僕は今まで生かされてきた意味が分からなかった。でも、今ようやく分かった気がする」

    きみの隣で死ぬために、生きてきた気がする。
    きょとんとした顔をするきみが何だか可笑しくて。
    いつもは澄ました顔をしているくせに。すべてを受け入れて、すべて諦めているくせに。
    その眦に溜まった雫が、きみの心を表している気がした。

    「そう言えば、言い忘れてた。僕ね、きみのこと」

    そこまで言って、きみの息がないことに気が付いた。
    僕は瞼を伏せて、そうして言った。

    「きみが大好きだよ」

    そうしてきみを貫いた剣で、僕は自分の命を絶った。
    これはきっと、何処にでもある恋のお話。


    title by:確かに恋だった

    散文