小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 問うて返る言葉無し

    20190422(月)04:32
    「お前の傍に居られればそれで良かった」

    なのに、人という生き物は強欲だな。

    「俺は、お前の幸せを祝えそうにもない」

    頬を伝う生温い液体の意味を考えようとして、やめた。
    俺にとっての最優先事項。最大限に愛した女は、今日。他の男のものとなった。

    「好きだと、そう伝えていればまだ何か違ったのか?」

    問うて、返ってくる答えはない。
    晴れやかな空の下。
    ただただ静かに涙を流す俺を、きっとお前は一生知らないのだろう。
    それで良い。それが良い。
    俺にとっての幸せは、どう足掻いてもお前の幸せなのだから。
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    散文

  • 消えて欲しい人

    20190319(火)20:50
    愛だとか恋だとか。
    そんな陳腐なセリフを吐いていた同級生が、死んだ。
    飛び降り自殺だった。
    涙を流すクラスメイト達に、私は何も思えなかった。
    こんなに私は非情だったのかと、そう思ったけれども。
    実は違う。
    何故ならその飛び降り自殺をした同級生は、私の傍に居るのだから。

    「いや、なんで?」

    「きみのおはようからおはようまでを見つめていたくなっちゃったから?」

    「不謹慎な死に方!」

    「僕にとっては大真面目な死に方だったんだけどなぁ」

    あはは、と笑う同級生の顔は晴れやかで。
    つい一昨日死んだ人間とは思えない。

    ――死んだ人間が幽霊になってまでストーキングしてくるんですが、これはお祓い案件ですか?

    「あ、お祓いになんて行ったらそのお祓いした人を呪い殺すよ?」

    「あ、退路塞がれた」
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    散文

  • 呪いにかかった公爵×嘘つきな魔女

    20190314(木)01:45
    「運命なんて信じていなかったのよ」

    そう言ったのは魔女だった。
    森に住む魔女だった。
    大層な魔法を使うと噂の、恐ろしい魔女だった。

    「俺に呪いをかけたのは、お前ではなかったんだな」

    公爵様は呪いにかかっていた。
    死の病の呪いにかかっていた。
    其れをかけた容疑で、森の魔女は捕まった。

    「どうして言わなかったんだ」

    「言って何になるの?」

    「お前を救えた」

    「馬鹿ね」

    魔女は笑う。不敵に笑う。

    「私ね、運命なんて信じてないの」

    信じてなかったの。
    公爵様。貴方を愛しただなんて、明日処刑される身でなければ口が裂けても言えなかったわ。

    「……愛して、くれていたのか?」

    公爵の疑問に魔女は笑うだけで。
    公爵は項垂れながら、その場に座り込んだ。

    「お前を救えない愚かな私を、お前は其れでも愛してくれるのか?」

    「傲慢ね」

    でも、そんなところを愛していたわ。


    あるところに魔女が居ました。
    嘘つきな魔女が居ました。
    嘘つきな魔女が最期に吐いたのは、愛しい男にのみ向けた本音でした。
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    散文

  • 愛を知らない王太子×花屋の娘

    20190314(木)01:20
    私の息の根を止めるのはあなたがいい。
    そんな言葉を吐かれた。
    花束を作っていた私はハッと鼻で笑ってしまった。

    「今日結婚される王太子様が何を仰っているのかしら?」

    「そうだな……そうだったな……」

    悲しげな瞳をする王太子はゆるりと首を振りながら言う。

    「愛なんて知らないままが良かった」
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    ついったlog

  • 灯火は消え

    20190104(金)15:03
    アナタをこの手で殺めなくてはならないと命令された時、あたしね?決めたのですよ。

    「アナタだけは絶対に死なせないって」

    絶望の色をその瞳に滲ませて、首を緩く振る男はカタカタと身体を震わせていた。
    あたしは白く霞んでいく視界の中で必死に彼を見ようとしたけれど、神様はソレを許してはくれなかったみたいだね。

    「だいすき」

    アナタがどう思って居ようと、あたしはアナタが大好きだった。
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    ついったlog

  • 煤くれた空

    20181027(土)21:39
    十字に組んだ木に身体を縛られる。
    アタシは今日、死ぬ。
    魔女裁判にかけられてしまったから仕方がないのだけれども。
    何せ本物の魔女であるアタシが死ぬのだ。
    普通の人間だったら耐えられないだろう。

    「何か、言うことはないのか」

    何かを言って欲しそうな男に、アタシは微笑んだ。
    男は異端審問官で、神にその身を捧げた人間で。
    今更懺悔して助かるとは思っていないし、ここでアタシと男の関係がバレれば彼にも迷惑がかかる。
    群衆の中で、アタシはただ男を見て、「いいえ」と笑った。

    嗚呼、火が灯された。
    痛いし、苦しいけれども。

    (そんな顔された方が、ずっと痛いわ)

    私を異端審問にかけた張本人のくせに。
    狡い男ね、とアタシは笑って空を見上げた。
    煤くれたような色の空だった。
    空でさえアタシを歓迎していないなら、アタシが死んだあとは何処に行くのかしらね?
    なんて、呑気なことを考えて。
    男のつらそうな顔から目を逸らした。
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    散文

  • 花束

    20181027(土)20:41
    花束を手に持ち、俺はそこに立っていた。
    灰色の石を目の前に何を想うでもなくただソレを見つめて。

    「なあ、」

    呼びかけるように発した声は、果たして誰に伝えたかったのか。

    「俺はまだ、この花を供えることは出来ないみたいだ」

    自嘲するように笑って、花束を抱えたままその場から背を向ける。
    見上げた空は青く、晴れ渡り。
    あまりに綺麗なその色に、思わず目を細めた。
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    散文

  • ただ、一言(BL)

    20181024(水)11:51
    彼は最期に言った。

    「お前のことが嫌いだった」と。

    何かを諦めたように、今にも泣きそうな顔で。
    それはどうにも「嫌い」だなんて顔じゃなかったけれども。
    俺は何も、何も言えなかった。
    答えるのが怖かったのだと気付いていた。
    一言言えていたならば。

    『俺もお前が好きだったよ』と。
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    散文

  • 凉やかな冬【烏】

    20181011(木)20:23
    「お前様」

    「なんだ、凉乃」

    ちょいちょいと手招きをされて、私は首を傾げながら寝台の縁に座っている妻に近付く。

    「赤が出来たよ」

    「赤?」

    「嗚呼、そうさね」

    耳慣れない言葉に再び首を傾げれば、凉乃はにんまりと笑って言う。

    「子が出来たのさね」

    「……誰の、」

    馬鹿な質問をしたとも思っているし、私以外にそんな相手が居て欲しくないとも思うのだが、脳内があまりの出来事に処理出来ていない。

    「お前様の子だよ、ヴェル」

    「……そ、うか」

    そうか。私の子か。そうか……。

    「何泣いてんだい。可笑しな男だねぇ」

    「私にも分からないが、こんなにも嬉しいことなのだな」

    「お前様なら喜んで貰えると思っていたよ」

    ふっと笑った凉乃を、私は思わず抱き締めていた。

    「ありがとう、凉乃」

    このいとしい命を。
    大事にしていくと、決めたのだ。
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    連作幕の外続かない筈だったその後

  • ご主人と吸血鬼のエイプリルフール

    20181009(火)19:16
    「ご主人~。今日は嘘をついても良い日なんですよ!」

    「何ワクワクした顔してんだお前は」

    「ふふふ。ご主人にどんな嘘をつきましょうかねー」

    「嘘って分かってたら意味ねぇだろ」

    「……ご主人」

    「なんだ?」

    「どうやら私……大切なご主人に嘘なんてとてもつけそうにないことが分かりました!」

    「……そぉか。そりゃ良かったな」

    「なんででちょっと嬉しそうなんです?」

    「なんでだろうなぁ?」
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    連作幕の外イベント事