小ネタ
SSよりも小さなお話を置く場所。
記事一覧
散文
20190615(土)19:56貴方が幸せになる。
これ以上の幸せはどこにもありはしないでしょう。
海の中、泡となりゆく体を見つめながらそう思い微笑みます。
(なんて、嘘を吐いてしまいましたね)
愛して欲しかったのはわたくしも同じ。
共に生きたかったのも。
なれど貴方をこの手にかけることだけは出来ませんでした。散文
散文
20190615(土)19:42僕と平気で寝るくせに。
そう心の中で呟いて、近くにあった小石を蹴った。
僕の愛しい人は小さな背をピンと伸ばして、彼だけをその眼裏に映して、決して僕を見てはくれない。
ねえ、いい加減に僕を見てよ。
そう嘆きたい気持ちすら彼は見てくれない。
死人に口なし。
勝てるわけがなかった。散文ついったlog
【烏】メイド長の想い
20190523(木)22:38「メイド長、お前様はヴェルの味方だろう?」
嗚呼、奥様。あなた様はそのように快活に笑いながら、あまりに酷なことを言うのですね。
「……ええ、私はスパロウ家のメイド長ですから」
凛と伸ばした背よ。どうか丸まらないで。
この優しくあたたかな方の残り少ない命を、どうか少しでも伸ばして差し上げられたなら。
私の命でもなんでも、交換出来たなら良かったのに。
「旦那様が悲しまれることは、致しません」
さあ、奥様。あなた様は早くお眠りになられてくださいませ。
そう言って、私は奥様を寝台に押し込んだ。
さり気なく煙管に手を伸ばそうとした奥様から煙管盆を少し遠くに置いてから、寝室を出た。
自身の部屋に逃げるように小走りに入ったら、グッと堪えていた何かが決壊するかのように涙が零れてきた。
本当に泣きたいのは奥様だというのに。
『ヴェルに会いたいねぇ』
そう仰られて微かに笑われた奥様の声を聞いて、私は泣いてしまった。
気丈で居なくてはいけないのに。
すべてを知っている私が、しっかりしなくてはならないのに。
「インヴェルノ様……。申し訳御座いません」
鼻を啜って、私は仕える主人に謝った。
謝ったところで、どうにかなることではないのに。
それでも口から零れたのは、謝罪の言葉だった。続かない筈だったその後
キスの日の変態 2019年
20190523(木)18:17「キスの日ですね!僕に何かしたいことはありませんか!?僕はあります!」
「唐突にやって来て何が目的ですか変態ストーカー野郎」
「あなたのキスが欲しいです」
「嫌ですけど?」
「分かりました。じゃあ唇だけ貸してください!僕が勝手に良いようにするので!」
「『じゃあ』の使い方間違えてません?とりあえず警察呼ぶので待っててください」
「あ、待っててなんて……どうしよう。きみから初めて僕にお願いされた……」
永遠に待ってる。なんて頬を染めながら言った変態の顔を、グーで殴りたいのをグッと抑え。
私はとりあえずおなじみとなった警察官のお兄さんに連絡を取ったのであった。
「接触禁止令ってどうやったら出せるんでしょうかね?」
「アイツが弁護士な時点で色々詰んでるからもう諦めて籍入れちまえ」
「うら若き女子高生にソレ言います?」変態詰所
散文
20190516(木)23:36決して離れないと、離さないと、そう、誓ったのに。
お前はいとも容易く離れていってしまったね?
空を見上げれば、そこには確かにお前が居るような気がした。
けれども、何処にも居ないのだ。
お前が居ないこの世界に、意味なんてあるのだろうか?
「お前の居なくなった世界に、意味も、興味も、ないんだよ」
ぼそりと呟いた言葉は、空気に重たく圧し掛かるような。
そんな気がした。散文
問うて返る言葉無し
20190422(月)04:32「お前の傍に居られればそれで良かった」
なのに、人という生き物は強欲だな。
「俺は、お前の幸せを祝えそうにもない」
頬を伝う生温い液体の意味を考えようとして、やめた。
俺にとっての最優先事項。最大限に愛した女は、今日。他の男のものとなった。
「好きだと、そう伝えていればまだ何か違ったのか?」
問うて、返ってくる答えはない。
晴れやかな空の下。
ただただ静かに涙を流す俺を、きっとお前は一生知らないのだろう。
それで良い。それが良い。
俺にとっての幸せは、どう足掻いてもお前の幸せなのだから。散文
消えて欲しい人
20190319(火)20:50愛だとか恋だとか。
そんな陳腐なセリフを吐いていた同級生が、死んだ。
飛び降り自殺だった。
涙を流すクラスメイト達に、私は何も思えなかった。
こんなに私は非情だったのかと、そう思ったけれども。
実は違う。
何故ならその飛び降り自殺をした同級生は、私の傍に居るのだから。
「いや、なんで?」
「きみのおはようからおはようまでを見つめていたくなっちゃったから?」
「不謹慎な死に方!」
「僕にとっては大真面目な死に方だったんだけどなぁ」
あはは、と笑う同級生の顔は晴れやかで。
つい一昨日死んだ人間とは思えない。
――死んだ人間が幽霊になってまでストーキングしてくるんですが、これはお祓い案件ですか?
「あ、お祓いになんて行ったらそのお祓いした人を呪い殺すよ?」
「あ、退路塞がれた」散文
呪いにかかった公爵×嘘つきな魔女
20190314(木)01:45「運命なんて信じていなかったのよ」
そう言ったのは魔女だった。
森に住む魔女だった。
大層な魔法を使うと噂の、恐ろしい魔女だった。
「俺に呪いをかけたのは、お前ではなかったんだな」
公爵様は呪いにかかっていた。
死の病の呪いにかかっていた。
其れをかけた容疑で、森の魔女は捕まった。
「どうして言わなかったんだ」
「言って何になるの?」
「お前を救えた」
「馬鹿ね」
魔女は笑う。不敵に笑う。
「私ね、運命なんて信じてないの」
信じてなかったの。
公爵様。貴方を愛しただなんて、明日処刑される身でなければ口が裂けても言えなかったわ。
「……愛して、くれていたのか?」
公爵の疑問に魔女は笑うだけで。
公爵は項垂れながら、その場に座り込んだ。
「お前を救えない愚かな私を、お前は其れでも愛してくれるのか?」
「傲慢ね」
でも、そんなところを愛していたわ。
あるところに魔女が居ました。
嘘つきな魔女が居ました。
嘘つきな魔女が最期に吐いたのは、愛しい男にのみ向けた本音でした。散文
愛を知らない王太子×花屋の娘
20190314(木)01:20私の息の根を止めるのはあなたがいい。
そんな言葉を吐かれた。
花束を作っていた私はハッと鼻で笑ってしまった。
「今日結婚される王太子様が何を仰っているのかしら?」
「そうだな……そうだったな……」
悲しげな瞳をする王太子はゆるりと首を振りながら言う。
「愛なんて知らないままが良かった」ついったlog
灯火は消え
20190104(金)15:03アナタをこの手で殺めなくてはならないと命令された時、あたしね?決めたのですよ。
「アナタだけは絶対に死なせないって」
絶望の色をその瞳に滲ませて、首を緩く振る男はカタカタと身体を震わせていた。
あたしは白く霞んでいく視界の中で必死に彼を見ようとしたけれど、神様はソレを許してはくれなかったみたいだね。
「だいすき」
アナタがどう思って居ようと、あたしはアナタが大好きだった。ついったlog
