小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • さようならば仕方ない

    20191106(水)22:29
    冬の空には打って付けだ。
    私は眠る男のかさついた唇にひとつ口付けを落とすと、口角を上げた。
    朝を迎えることを待ち望んだその顔は、私が出逢った日と何ひとつ変わらない綺麗な顔で。
    涙は自然と零れなかった。
    いつかこんな日が来ると分かっていたからだろうか?

    「さようなら」

    いとしい人の子。
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    散文ついったlog

  • いとしい……

    20191006(日)12:55
    羽根を撫で、歌声を奏で、僕の為だけに囀る、僕だけの金糸雀。
    きみを鳥籠に閉じ込めて空の色を忘れさせた。
    僕のこの狂気染みた想いはもうきっと止まらない。止まらなくても良い。
    金糸雀、金糸雀。

    僕だけの愛しい女の子。

    最初はそれだけだった筈なのに、何処から狂ってしまったのだろうね?
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    ついったlog

  • 灰青の音色

    20191002(水)18:57
    煩いくらいに騒ぐから、私はどうしていいか分からなくて。
    けれども、そう、確かなのは。
    この心が騒ぐ通りに行動したくはないということ。

    「好きやで!瑠璃葉!」

    「そう、私はそうでもないわよ」

    そう答えたら「酷いなぁ」と返す癖に。
    あなたは何処かでホッとした顔していたことに、気付いているのかしら?
    とはいえ私も、その度にチクリと痛むこの胸のSOSには気付きたくなかったけれども。


    これはあなたを好きになる前の、好きだと認識する前の。
    ずっと前のお話。
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    連作幕の外

  • いとしいとしへびさま

    20190815(木)14:37
    「蛇さま、蛇さま」

    「どうしました?坊」

    「蛇さまはどうして人と結婚したの?」

    「……どうしてでしょうね?」

    はぐらかすようなその言葉に、僕はむぅっと唇を尖らせる。
    蛇さまは自分のことをあまり話さない方だ。
    だけれども、僕は知っている。

    (人間を愛してしまった憐れな蛇さま)

    囚われているくせに、逃げられるくせに。僕の付けた足枷たる赤い格子の中から出ることはない。
    それはきっと、始祖たる男を思ってのことなのだろう。

    「悔しいなぁ……」

    どうしたって、蛇さまの欠片すらも、僕の手には入らないのだから。
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    散文ついったlog続かない筈だったその後

  • 散文

    20190725(木)00:53
    ふわりと花が咲き綻ぶかのような笑えに胸がぎゅうっと締め付けられる。
    苦しい、そう呟けばきょとりとした顔をされた。
    どうして?と問われて、お前が好きすぎて苦しいと、そう言った。
    「あなたはおかしな人ね」と、にんまりと悪戯っ子のような顔をしていた彼女のその耳は赤かった。
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    散文

  • 地へ堕ちて天へ逝く

    20190718(木)15:52
    「何故、人の子など愛したのです?」

    その問いに、わたくしはただ微笑みだけを返しました。
    言葉など要らぬのです。
    神が人の子を慈しむように、わたくしも人の子を愛してしまっただけなのですから。

    「神格を失っても良いと?」

    その問いにもわたくしは微笑んだまま。
    わたくしのお仕えする神は呆れたように首を振り、白磁のような腕を上げて指さし一言。

    「お行き」

    そこは地獄の門。貴方様の居る、わたくしの天国。
    わたくしは微笑んだまま、そこに飛び込むように堕ちて行きました。
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    散文ついったlog

  • 散文

    20190717(水)18:16
    白磁のような白い肌。美しく流れる黒髪。閉ざされたままの緑の瞳。
    きっともう、彼女は二度と目を覚まさないのだろう。
    どうして、こうなってしまったんだろうね?
    そう訊きたくて、でも出来なかったのは。
    僕の弱さからか。
    吐息すら聞こえない彼女の心臓の上に耳を宛てる。
    鼓動はない。それでもどうにか聞こうと耳を宛てる。
    弱弱しくても良かった。
    生きていて欲しかった。
    世界はそんなことすら許してはくれないのだ。
    ぼろりと零れた涙は、彼女の冷たい身体に流れ落ちた。
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    散文

  • 相容れないふたり

    20190615(土)20:15
    破裂する音の元凶が私の腹を割いた。
    ゴホッと吐き出した紅い華はどうにも止まらないようだ。

    「しぶとく生きるね?」

    「まー、生命力はゴキちゃん並なんで」

    「ふぅん?吸血鬼って不思議だね」

    もう一発、とばかりに銀の弾丸を腹に撃ち込まれた。
    私は弾の勢いに押され倒れ伏す。血は止まらないし、息はしにくいし、何より死ねないし、最悪な夜だ。
    私は死ねない。死なない吸血鬼。

    「不老不死だなんて、羨ましいことこの上ないね」

    「……まあ、きみの場合はそうだろうね」

    「何?嫌味?」

    「変わってくれるなら、嫌味でもなんでも構わないんだけどね」

    私は、はあ、と息を吐く。
    ようやく潰れた心臓と肺が復活したようだ。
    死ねないからといって痛みがないわけではないのに。
    それは彼も知っているだろうに。

    「余命いくばくもない君には、私のすべてが嫌味かな?」

    「ホント、ムカつく」

    そう言った君、エクソシストは私に再度銃弾を撃ち込んだ。
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    ついったlog

  • 散文

    20190615(土)19:56
    貴方が幸せになる。
    これ以上の幸せはどこにもありはしないでしょう。
    海の中、泡となりゆく体を見つめながらそう思い微笑みます。

    (なんて、嘘を吐いてしまいましたね)

    愛して欲しかったのはわたくしも同じ。
    共に生きたかったのも。
    なれど貴方をこの手にかけることだけは出来ませんでした。
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    散文

  • 散文

    20190615(土)19:42
    僕と平気で寝るくせに。
    そう心の中で呟いて、近くにあった小石を蹴った。
    僕の愛しい人は小さな背をピンと伸ばして、彼だけをその眼裏に映して、決して僕を見てはくれない。
    ねえ、いい加減に僕を見てよ。
    そう嘆きたい気持ちすら彼は見てくれない。
    死人に口なし。
    勝てるわけがなかった。
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    散文ついったlog