小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • いとしいとしへびさま

    20190815(木)14:37
    「蛇さま、蛇さま」

    「どうしました?坊」

    「蛇さまはどうして人と結婚したの?」

    「……どうしてでしょうね?」

    はぐらかすようなその言葉に、僕はむぅっと唇を尖らせる。
    蛇さまは自分のことをあまり話さない方だ。
    だけれども、僕は知っている。

    (人間を愛してしまった憐れな蛇さま)

    囚われているくせに、逃げられるくせに。僕の付けた足枷たる赤い格子の中から出ることはない。
    それはきっと、始祖たる男を思ってのことなのだろう。

    「悔しいなぁ……」

    どうしたって、蛇さまの欠片すらも、僕の手には入らないのだから。
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    散文ついったlog続かない筈だったその後

  • 散文

    20190725(木)00:53
    ふわりと花が咲き綻ぶかのような笑えに胸がぎゅうっと締め付けられる。
    苦しい、そう呟けばきょとりとした顔をされた。
    どうして?と問われて、お前が好きすぎて苦しいと、そう言った。
    「あなたはおかしな人ね」と、にんまりと悪戯っ子のような顔をしていた彼女のその耳は赤かった。
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    散文

  • 地へ堕ちて天へ逝く

    20190718(木)15:52
    「何故、人の子など愛したのです?」

    その問いに、わたくしはただ微笑みだけを返しました。
    言葉など要らぬのです。
    神が人の子を慈しむように、わたくしも人の子を愛してしまっただけなのですから。

    「神格を失っても良いと?」

    その問いにもわたくしは微笑んだまま。
    わたくしのお仕えする神は呆れたように首を振り、白磁のような腕を上げて指さし一言。

    「お行き」

    そこは地獄の門。貴方様の居る、わたくしの天国。
    わたくしは微笑んだまま、そこに飛び込むように堕ちて行きました。
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    散文ついったlog

  • 散文

    20190717(水)18:16
    白磁のような白い肌。美しく流れる黒髪。閉ざされたままの緑の瞳。
    きっともう、彼女は二度と目を覚まさないのだろう。
    どうして、こうなってしまったんだろうね?
    そう訊きたくて、でも出来なかったのは。
    僕の弱さからか。
    吐息すら聞こえない彼女の心臓の上に耳を宛てる。
    鼓動はない。それでもどうにか聞こうと耳を宛てる。
    弱弱しくても良かった。
    生きていて欲しかった。
    世界はそんなことすら許してはくれないのだ。
    ぼろりと零れた涙は、彼女の冷たい身体に流れ落ちた。
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    散文

  • 相容れないふたり

    20190615(土)20:15
    破裂する音の元凶が私の腹を割いた。
    ゴホッと吐き出した紅い華はどうにも止まらないようだ。

    「しぶとく生きるね?」

    「まー、生命力はゴキちゃん並なんで」

    「ふぅん?吸血鬼って不思議だね」

    もう一発、とばかりに銀の弾丸を腹に撃ち込まれた。
    私は弾の勢いに押され倒れ伏す。血は止まらないし、息はしにくいし、何より死ねないし、最悪な夜だ。
    私は死ねない。死なない吸血鬼。

    「不老不死だなんて、羨ましいことこの上ないね」

    「……まあ、きみの場合はそうだろうね」

    「何?嫌味?」

    「変わってくれるなら、嫌味でもなんでも構わないんだけどね」

    私は、はあ、と息を吐く。
    ようやく潰れた心臓と肺が復活したようだ。
    死ねないからといって痛みがないわけではないのに。
    それは彼も知っているだろうに。

    「余命いくばくもない君には、私のすべてが嫌味かな?」

    「ホント、ムカつく」

    そう言った君、エクソシストは私に再度銃弾を撃ち込んだ。
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    ついったlog

  • 散文

    20190615(土)19:56
    貴方が幸せになる。
    これ以上の幸せはどこにもありはしないでしょう。
    海の中、泡となりゆく体を見つめながらそう思い微笑みます。

    (なんて、嘘を吐いてしまいましたね)

    愛して欲しかったのはわたくしも同じ。
    共に生きたかったのも。
    なれど貴方をこの手にかけることだけは出来ませんでした。
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    散文

  • 散文

    20190615(土)19:42
    僕と平気で寝るくせに。
    そう心の中で呟いて、近くにあった小石を蹴った。
    僕の愛しい人は小さな背をピンと伸ばして、彼だけをその眼裏に映して、決して僕を見てはくれない。
    ねえ、いい加減に僕を見てよ。
    そう嘆きたい気持ちすら彼は見てくれない。
    死人に口なし。
    勝てるわけがなかった。
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    散文ついったlog

  • 【烏】メイド長の想い

    20190523(木)22:38
    「メイド長、お前様はヴェルの味方だろう?」

    嗚呼、奥様。あなた様はそのように快活に笑いながら、あまりに酷なことを言うのですね。

    「……ええ、私はスパロウ家のメイド長ですから」

    凛と伸ばした背よ。どうか丸まらないで。
    この優しくあたたかな方の残り少ない命を、どうか少しでも伸ばして差し上げられたなら。
    私の命でもなんでも、交換出来たなら良かったのに。

    「旦那様が悲しまれることは、致しません」

    さあ、奥様。あなた様は早くお眠りになられてくださいませ。

    そう言って、私は奥様を寝台に押し込んだ。
    さり気なく煙管に手を伸ばそうとした奥様から煙管盆を少し遠くに置いてから、寝室を出た。
    自身の部屋に逃げるように小走りに入ったら、グッと堪えていた何かが決壊するかのように涙が零れてきた。
    本当に泣きたいのは奥様だというのに。

    『ヴェルに会いたいねぇ』

    そう仰られて微かに笑われた奥様の声を聞いて、私は泣いてしまった。
    気丈で居なくてはいけないのに。
    すべてを知っている私が、しっかりしなくてはならないのに。

    「インヴェルノ様……。申し訳御座いません」

    鼻を啜って、私は仕える主人に謝った。
    謝ったところで、どうにかなることではないのに。
    それでも口から零れたのは、謝罪の言葉だった。
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    続かない筈だったその後

  • キスの日の変態 2019年

    20190523(木)18:17
    「キスの日ですね!僕に何かしたいことはありませんか!?僕はあります!」

    「唐突にやって来て何が目的ですか変態ストーカー野郎」

    「あなたのキスが欲しいです」

    「嫌ですけど?」

    「分かりました。じゃあ唇だけ貸してください!僕が勝手に良いようにするので!」

    「『じゃあ』の使い方間違えてません?とりあえず警察呼ぶので待っててください」

    「あ、待っててなんて……どうしよう。きみから初めて僕にお願いされた……」

    永遠に待ってる。なんて頬を染めながら言った変態の顔を、グーで殴りたいのをグッと抑え。
    私はとりあえずおなじみとなった警察官のお兄さんに連絡を取ったのであった。



    「接触禁止令ってどうやったら出せるんでしょうかね?」

    「アイツが弁護士な時点で色々詰んでるからもう諦めて籍入れちまえ」

    「うら若き女子高生にソレ言います?」
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    変態詰所

  • 散文

    20190516(木)23:36
    決して離れないと、離さないと、そう、誓ったのに。
    お前はいとも容易く離れていってしまったね?

    空を見上げれば、そこには確かにお前が居るような気がした。
    けれども、何処にも居ないのだ。
    お前が居ないこの世界に、意味なんてあるのだろうか?

    「お前の居なくなった世界に、意味も、興味も、ないんだよ」

    ぼそりと呟いた言葉は、空気に重たく圧し掛かるような。
    そんな気がした。
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    散文