小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 暗闇に咲く花

    20200815(土)18:42
    きっと世界で一番幸せなんだと思うんだ。
    この時がずっと続けばいいと思うんだ。
    きみが笑っていて、僕が隣に居て。
    幸せだと思ったんだ。

    ――まやかしの幸せだと分かっていてもね?

    「僕はずっと願っていたんだ。きみを手に入れるその日を。きみが目覚めるその日を」

    けれども、その願いは叶わない。
    彼女は眠ることを願った。僕は彼女を救えなかった。
    愛した彼女だけは守りたかったのに。
    せめて、彼女だけは守りたかったのに。
    どうして、そんなほんの少しの願いすら神様は叶えてくれないのだろうか。

    僕を好きになってくれた女の子達がいた。
    僕は平等に彼女達を愛した。
    そこに感情は籠らなくても。
    そこに何も生まれなくても。
    それで良いと思ったんだ。
    でも、彼女は。彼女だけは違った。
    僕はそんな彼女に惹かれた。きっとここが大きな間違いなのだろう。

    「僕が、きみを愛さなければ良かったのかな?」

    掠れた声が出た。情けない声だ。あまりに情けなさ過ぎて、涙すら出てこなかった。

    「ねえ、起きて。こっちを見て」

    僕がきみを愛した気持ちはもう消えることはない。
    だって愛してしまったのだから。
    それを変えることは決して出来ないのだ。

    「きみが目覚める日を、ずっと待って居るよ」

    その日まで、きみだけを愛し続けるから。
    きみの居る暗闇が、少しでも早く明けることを願って、彼女の手を強く、強く、握った。
    コメントする ( 0 )

    散文

  • 魔導書館は変人だらけ/散文

    20200731(金)20:38
    この世界にもし神様という存在が居るのであれば、僕は『彼女』と結ばれたかった。
    けれども『彼女』は僕を選ぶことはないだろう。
    その胸の中心に揺れる大きな紅い宝石を見つめる『彼女』の顔はいつだって憂い顔。にも関わらずどこか楽しんでいるようにも見えた。

    「あの宝石には壱乃の大事なヤツが眠ってんだよ」

    天蔵さんがいつかの日にかそう言っていたのを良く覚えてる。
    魔女である壱乃さんは異端審問官である僕が決して好きになってはいけない相手で。
    けれども異端審問官でありながら神という存在を疑う僕もまた、愚かなのだろう。

    「壱乃さん」

    「なんしょう?ラスクさん」

    「壱乃さんは僕の死を看取ってくれますか?」

    「……なんという口説き文句なのでしょうねぇ」

    「僕だって男ですので」

    「ふふ。そうですね」

    わたくしは優しくはないですがその男気に免じて、

    「わたくしの命在る限り、貴方の命を視ていましょう」

    にこやかに笑う壱乃さんの僕はどこかでホッとしていた。
    僕より先に居なくなったりしない壱乃さんに、僕はどこかで安心していたんだ。
    だから――

    「こんなこと、あんまりだ……」

    ――壱乃さん。貴女の居ない世界は、あまりに寒すぎる。
    コメントする ( 1 )

    散文連作幕の外続かない筈だったその後

  • ルネ独白/天魔界事変 幕間

    20200621(日)21:18
    僕ね、アグリくんのこと大好きなの、本当だよ?
    なのにアグリくんったら僕の気持ちにまったく応えてくれない。
    どうしてかな。どうしてアグリくんは僕の気持ちに応えてくれないんだろう。
    きみが僕の気持ちに応えてくれないから、僕の気持ちも宙ぶらりん。
    好きなのに、大好きなのに。アグリくん。
    どうしていつもきみは困った顔をして、頭を撫でてくるのかなぁ。
    僕が百歳も下だから? 僕が男だから? 僕が、悪魔と天使のハーフだから?
    そんなこと気にするの、アグルくんじゃない。
    僕が好きなアグリくんは、心が広くて、大人で、誰よりも僕に優しい。
    だから苦しいよ。アグリくん。
    アグリくんが他の女の子と居るのは、とても苦しい。
    僕がなりたくてもなれないきみのコイビトには、僕の性別が男のせいでなれないのかなぁ。切ないなぁ。

    ――だからって、諦めるわけないけどね?

    きみに相応しくなる為に頑張るから。

    「だから待っててね、アグリくん」

    僕は諦めが悪いんだ。
    コメントする ( 0 )

    散文連作幕の外

  • 「それでも『此処』が、現実なんだよなァ」

    20200512(火)22:00
    これが夢だということは一目瞭然。なんなら何も見なくても匂いで分かる。
    俺が俺の手で失ったあの日から、俺の鼻孔をつくのはいつだって血の臭い。
    だから、なあ?神様とやら。これは悪い夢だと言ってくれ。

    「それとも、カナリアが見せてるのか?」

    そんなことを一瞬だけ思って、自分の頬を殴った。
    俺であってもあの美しい鳥を侮辱することは許されてはいないから。

    「はぁ、早く覚めるといいなァ」

    こんな悪夢、早く目覚めちまえ。
    国が豊かで、俺の隣には親友と部下達が居て。賑やかに笑い合いながら過ごす。

    ――そんなの俺が許せない。

    好きな女を殺して、自分の手で殺して。守ることも出来なかった最低野郎が見ていい夢じゃねぇんだよ。

    「俺には地獄が似合いだね」

    そこに俺の求めるものがなくとも、な。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlog連作幕の外

  • 20200417(金)16:28
    雨、と彼女は言った。
    雨なんて降ってないよ?と僕は言う。
    空は見事なまでに快晴で雲ひとつない。
    どうしてそんなことを言うの?と僕は聞いた。
    彼女はボクの問いには答えずに静かに蹲って小さな声で囁いた。

    「この雨はあなたしか止められないのにね?」

    彼女は静かに雨を降らせながら呟いた。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlog

  • とある過去/灰青の音色

    20200405(日)16:21
    望めばなんでも手に入る人生だった。
    望まなくてもなんでも与えられる人生だった。
    だからあの人もあの冷たいだけの女より、可愛くてなんでも持っているわたしのことを愛してくれると信じていたのに。

    「……っぐぁ」

    どうして?どうして?
    どうして踏まれているの。どうして髪を掴まれているの。
    どうして――あなたはそんなにも冷たい目をしているの?

    望めばなんでも手に入った人生だった。
    わたしには輝かしい人生しか用意されていない筈だった。

    「お前だけは、絶対に許さない」

    楽に死ねると思うなよ。

    そう言った愛しい人はただ冷たい眼差しで突き刺すようにわたしを見つめたまま。
    わたしはただ、わけも分からずはらはらと涙を流しながら「どうして?」と呟き続けた。
    コメントする ( 0 )

    散文連作幕の外

  • 椿が咲いた

    20200222(土)15:11
    きみを見ていると胸が痛い、と気が付いたのはいつからか。
    忘れてしまうくらいには前のこと。僕はひとりの女の子に恋をしました。けれども女の子は僕には応えてくれず、他の男の元へと行ってしまった。
    怒ったし、くるしかったし、どうしようもないくらい悔しかったのを覚えている。
    でも、もう大丈夫。

    「これできみはもう、どこにも行かないね」

    にっこり笑ったきみの心臓の上には、赤い紅い椿が咲いた。
    コメントする ( 0 )
  • さようならば仕方ない

    20191106(水)22:29
    冬の空には打って付けだ。
    私は眠る男のかさついた唇にひとつ口付けを落とすと、口角を上げた。
    朝を迎えることを待ち望んだその顔は、私が出逢った日と何ひとつ変わらない綺麗な顔で。
    涙は自然と零れなかった。
    いつかこんな日が来ると分かっていたからだろうか?

    「さようなら」

    いとしい人の子。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlog

  • いとしい……

    20191006(日)12:55
    羽根を撫で、歌声を奏で、僕の為だけに囀る、僕だけの金糸雀。
    きみを鳥籠に閉じ込めて空の色を忘れさせた。
    僕のこの狂気染みた想いはもうきっと止まらない。止まらなくても良い。
    金糸雀、金糸雀。

    僕だけの愛しい女の子。

    最初はそれだけだった筈なのに、何処から狂ってしまったのだろうね?
    コメントする ( 0 )

    ついったlog

  • 灰青の音色

    20191002(水)18:57
    煩いくらいに騒ぐから、私はどうしていいか分からなくて。
    けれども、そう、確かなのは。
    この心が騒ぐ通りに行動したくはないということ。

    「好きやで!瑠璃葉!」

    「そう、私はそうでもないわよ」

    そう答えたら「酷いなぁ」と返す癖に。
    あなたは何処かでホッとした顔していたことに、気付いているのかしら?
    とはいえ私も、その度にチクリと痛むこの胸のSOSには気付きたくなかったけれども。


    これはあなたを好きになる前の、好きだと認識する前の。
    ずっと前のお話。
    コメントする ( 0 )

    連作幕の外