小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 聖歌と聖火

    20201228(月)18:29
    こうなることが運命だと言うのなら、こんな世界僕が壊してしまいたい。

    「魔女に聖歌を、魔女に聖火を」

    静かに述べられたその言葉は、目の前の魔女に向けられる。
    聖なる歌は彼女の身体を蝕み、聖なる火は彼女の身体を燃やしていく。

    「ぅ、ぐっ」

    小さな悲鳴は小鳥の囀りのようで、この場の誰もが気にも留めない。
    これはショーだ。魔女狩りという名の、国民への見せしめ。
    浪費家の女王が思いついた、ただの暇つぶしとでも言えるかな?
    悲しい悲劇は止まらない。
    きっと誰もが思っている。

    ――女王こそが、魔女であると。

    誰もそんな言葉、言えやしないけどね。
    かくいう僕も、自分の大事な奥さんを火炙りにされながらなんにも言えない、愚かな人間のひとりなんだからさ。
    涙すら出ないなんて、薄情過ぎるかな?

    「魔女に聖歌を、魔女に聖火を」

    ああ、今日もまた女王の遊戯がはじまった。
    コメントする ( 0 )

    散文

  • おやすみ

    20201123(月)19:42
    こんな感情は要らなかったんだ。本当だよ?
    でもね、きみに与えられた感情ならなんでも良かった。
    痛いでも、苦しいでも、哀しいでも、嬉しいでも。
    なんでも良かったんだよ。

    「でもね、僕。忘れていたんだ」

    きみには寿命があって、僕にはそんなもの無くて。
    永遠を生きる僕と人間のきみでは違い過ぎたね。

    「こんな感情、要らなかった」

    きみに与えられたすべてが愛おしかった。
    それでもきみに与えられたこの『空虚さ』だけは要らなかった。
    ぽっかりと空いたこの穴を、埋められるのはきみだけだっていうのに。
    皮肉だね?きみは綺麗な顔をしながら静かな穴の中で眠っている。

    「もう一度……」

    願っても、きみが還ってくるわけでもなし。
    僕の心にある穴だけが、きみが確かにこの世界に居た証になっている。
    ならば僕は生き続けよう。
    きみが与えてくれたこの穴を抱えて、きみを想って。きみだけを愛して。
    そうしていつかまた会える日まで。

    「おやすみ、いとしいひと」
    コメントする ( 0 )

    散文

  • 天使の日

    20201004(日)21:15
    忘れてしまいたかった。
    それは事実で、きっと本音でもあったの。
    けれども忘れて欲しくもなかった。
    これも本心だった。
    彼が誰かと幸せになる未来を私はこれから祝福しなくてはならない。
    でもだからこそ、愛を司る天使たる私が保証するわ。
    その子は良い子よ、大事にしてあげて。
    遥か昔、幼い頃の友人よ。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlogイベント事

  • 暗闇に咲く花

    20200815(土)18:42
    きっと世界で一番幸せなんだと思うんだ。
    この時がずっと続けばいいと思うんだ。
    きみが笑っていて、僕が隣に居て。
    幸せだと思ったんだ。

    ――まやかしの幸せだと分かっていてもね?

    「僕はずっと願っていたんだ。きみを手に入れるその日を。きみが目覚めるその日を」

    けれども、その願いは叶わない。
    彼女は眠ることを願った。僕は彼女を救えなかった。
    愛した彼女だけは守りたかったのに。
    せめて、彼女だけは守りたかったのに。
    どうして、そんなほんの少しの願いすら神様は叶えてくれないのだろうか。

    僕を好きになってくれた女の子達がいた。
    僕は平等に彼女達を愛した。
    そこに感情は籠らなくても。
    そこに何も生まれなくても。
    それで良いと思ったんだ。
    でも、彼女は。彼女だけは違った。
    僕はそんな彼女に惹かれた。きっとここが大きな間違いなのだろう。

    「僕が、きみを愛さなければ良かったのかな?」

    掠れた声が出た。情けない声だ。あまりに情けなさ過ぎて、涙すら出てこなかった。

    「ねえ、起きて。こっちを見て」

    僕がきみを愛した気持ちはもう消えることはない。
    だって愛してしまったのだから。
    それを変えることは決して出来ないのだ。

    「きみが目覚める日を、ずっと待って居るよ」

    その日まで、きみだけを愛し続けるから。
    きみの居る暗闇が、少しでも早く明けることを願って、彼女の手を強く、強く、握った。
    コメントする ( 0 )

    散文

  • 魔導書館は変人だらけ/散文

    20200731(金)20:38
    この世界にもし神様という存在が居るのであれば、僕は『彼女』と結ばれたかった。
    けれども『彼女』は僕を選ぶことはないだろう。
    その胸の中心に揺れる大きな紅い宝石を見つめる『彼女』の顔はいつだって憂い顔。にも関わらずどこか楽しんでいるようにも見えた。

    「あの宝石には壱乃の大事なヤツが眠ってんだよ」

    天蔵さんがいつかの日にかそう言っていたのを良く覚えてる。
    魔女である壱乃さんは異端審問官である僕が決して好きになってはいけない相手で。
    けれども異端審問官でありながら神という存在を疑う僕もまた、愚かなのだろう。

    「壱乃さん」

    「なんしょう?ラスクさん」

    「壱乃さんは僕の死を看取ってくれますか?」

    「……なんという口説き文句なのでしょうねぇ」

    「僕だって男ですので」

    「ふふ。そうですね」

    わたくしは優しくはないですがその男気に免じて、

    「わたくしの命在る限り、貴方の命を視ていましょう」

    にこやかに笑う壱乃さんの僕はどこかでホッとしていた。
    僕より先に居なくなったりしない壱乃さんに、僕はどこかで安心していたんだ。
    だから――

    「こんなこと、あんまりだ……」

    ――壱乃さん。貴女の居ない世界は、あまりに寒すぎる。
    コメントする ( 1 )

    散文連作幕の外続かない筈だったその後

  • ルネ独白/天魔界事変 幕間

    20200621(日)21:18
    僕ね、アグリくんのこと大好きなの、本当だよ?
    なのにアグリくんったら僕の気持ちにまったく応えてくれない。
    どうしてかな。どうしてアグリくんは僕の気持ちに応えてくれないんだろう。
    きみが僕の気持ちに応えてくれないから、僕の気持ちも宙ぶらりん。
    好きなのに、大好きなのに。アグリくん。
    どうしていつもきみは困った顔をして、頭を撫でてくるのかなぁ。
    僕が百歳も下だから? 僕が男だから? 僕が、悪魔と天使のハーフだから?
    そんなこと気にするの、アグルくんじゃない。
    僕が好きなアグリくんは、心が広くて、大人で、誰よりも僕に優しい。
    だから苦しいよ。アグリくん。
    アグリくんが他の女の子と居るのは、とても苦しい。
    僕がなりたくてもなれないきみのコイビトには、僕の性別が男のせいでなれないのかなぁ。切ないなぁ。

    ――だからって、諦めるわけないけどね?

    きみに相応しくなる為に頑張るから。

    「だから待っててね、アグリくん」

    僕は諦めが悪いんだ。
    コメントする ( 0 )

    散文連作幕の外

  • 「それでも『此処』が、現実なんだよなァ」

    20200512(火)22:00
    これが夢だということは一目瞭然。なんなら何も見なくても匂いで分かる。
    俺が俺の手で失ったあの日から、俺の鼻孔をつくのはいつだって血の臭い。
    だから、なあ?神様とやら。これは悪い夢だと言ってくれ。

    「それとも、カナリアが見せてるのか?」

    そんなことを一瞬だけ思って、自分の頬を殴った。
    俺であってもあの美しい鳥を侮辱することは許されてはいないから。

    「はぁ、早く覚めるといいなァ」

    こんな悪夢、早く目覚めちまえ。
    国が豊かで、俺の隣には親友と部下達が居て。賑やかに笑い合いながら過ごす。

    ――そんなの俺が許せない。

    好きな女を殺して、自分の手で殺して。守ることも出来なかった最低野郎が見ていい夢じゃねぇんだよ。

    「俺には地獄が似合いだね」

    そこに俺の求めるものがなくとも、な。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlog連作幕の外

  • 20200417(金)16:28
    雨、と彼女は言った。
    雨なんて降ってないよ?と僕は言う。
    空は見事なまでに快晴で雲ひとつない。
    どうしてそんなことを言うの?と僕は聞いた。
    彼女はボクの問いには答えずに静かに蹲って小さな声で囁いた。

    「この雨はあなたしか止められないのにね?」

    彼女は静かに雨を降らせながら呟いた。
    コメントする ( 0 )

    散文ついったlog

  • とある過去/灰青の音色

    20200405(日)16:21
    望めばなんでも手に入る人生だった。
    望まなくてもなんでも与えられる人生だった。
    だからあの人もあの冷たいだけの女より、可愛くてなんでも持っているわたしのことを愛してくれると信じていたのに。

    「……っぐぁ」

    どうして?どうして?
    どうして踏まれているの。どうして髪を掴まれているの。
    どうして――あなたはそんなにも冷たい目をしているの?

    望めばなんでも手に入った人生だった。
    わたしには輝かしい人生しか用意されていない筈だった。

    「お前だけは、絶対に許さない」

    楽に死ねると思うなよ。

    そう言った愛しい人はただ冷たい眼差しで突き刺すようにわたしを見つめたまま。
    わたしはただ、わけも分からずはらはらと涙を流しながら「どうして?」と呟き続けた。
    コメントする ( 0 )

    散文連作幕の外

  • 椿が咲いた

    20200222(土)15:11
    きみを見ていると胸が痛い、と気が付いたのはいつからか。
    忘れてしまうくらいには前のこと。僕はひとりの女の子に恋をしました。けれども女の子は僕には応えてくれず、他の男の元へと行ってしまった。
    怒ったし、くるしかったし、どうしようもないくらい悔しかったのを覚えている。
    でも、もう大丈夫。

    「これできみはもう、どこにも行かないね」

    にっこり笑ったきみの心臓の上には、赤い紅い椿が咲いた。
    コメントする ( 0 )