小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 止まれない、止まらない / レイヴン【烏】

    20210714(水)20:30
    止まれるなら、幾らでも止まっていた。
    きっと未来はあったのだ。
    幸せな道を歩む術もどこかにあったのだ。
    けれども俺は選んでしまった。
    『復讐』という道を。
    俺は決して後悔していない。
    ……いや、ひとつ、後悔をしているというのなら。

    「凉萌を巻き込んじまったことか……」

    幸せな道を消して、殺戮の道を歩ませ、復讐の道ずれにした。
    それだけが心残り。

    「謝ったら、殺されんだろうな」

    だから謝らない。
    俺はもう、止まれないから。

    「カナリアが戻ってくるわけでも、ないのにな」

    分かっている。分かっているけれども、どうしたって止まれないのだ。
    歩み出した道を戻るのは、どれだけの労力が要るのだろう。
    どれだけ生きれば、死ねるのだろう。

    「カナリア」

    もうすぐだ。もうすぐ、お前を屠った男が死ぬ。
    俺は俺に復讐する。
    それはもうずっと、変わらない俺の夢。
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    連作幕の外続かない筈だったその後

  • 照れ隠しパイナップル

    20210501(土)14:06
    投擲した果実は弧を描いて目標物にぶち当たる。

    「いってぇ!?」

    目標物、もとい男はキョロキョロと辺りを見渡し、私を見つけるとドシドシと音を立てながら近付いてくる。

    「おっまえ!毎回言うが、照れ隠しでパイナップルを投げるな!危ない!主に命が」

    「ふん。羽虫がうるさいですね」

    「可愛くねぇ…」
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    散文ついったlog

  • あの日のお味噌汁、美味しかったなぁ

    20210405(月)19:39
    世界にひとりだけ。
    きみだけが僕の特別で、何より大切な宝物。
    なのにどうしてかな?
    僕の手の中に来たきみが笑うことは、きみの生涯の中で一度もなかった。
    神である僕が、人であるきみを手に入れる為に行った非道なことを、きっと怒っていたんだろうね。
    あんなに笑顔を振りまいて、とても元気に走り回っていたのに。
    僕の元へ来た時には、何もなかった。
    きみは笑顔を失い、走る為の足には枷が嵌められていた。
    僕がきみを求めて、そうして指示したとでも思っていたのだろうね。
    恨みがましそうに僕をよく見ていたから。
    でも、僕はそこまで求めていなかった。
    人間が勝手にしたことなんだよ。
    それだけは確か。

    「僕はただ、きみに笑いかけて欲しかっただけなんだ」

    七十年という人にとっては長い時を生き、そうして老衰で死んだきみの亡骸を抱きしめながら、そっときみの頬に口付けた。
    塩辛い、味がした。
    いつか昔。きみがまだ若かった頃に作ってくれた味噌汁によく似ている。
    そう思ったら、また口の中が塩辛くなった。
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    散文

  • 蜜花

    20210304(木)19:31
    狂うほどに欲しくて堪らなくて。
    己の妻を捨ててでも彼女が欲しくて。
    否、正確には彼女も己の妻であったのだけれども。
    人狼は番を決めたら一生その手を離さず、傍に居続ける。
    相手が死んでも魂は共に在ると思うくらいには愛情深い生き物だ。
    なのに俺はいともあっさりと妻――正妻であった女――を切り捨て、突如として側室に据えられた彼女、ハイドランジアの手を取った。
    あの時の二人の顔はきっと一生忘れられないんだろね。
    まあ、もっとも。元正妻の顔は薄情にも忘れてしまったのだけれども。
    なんて、ハイドランジアに言ったら彼女は壊れた心でなんと言うのだろうか?
    分からないだろうね。この身に余る激情なんて。
    俺だって知らなかったのだから。こんなにも強い欲求があるだんなんて。

    「決して逃がさないよ、ハイドランジア」

    俺の為だけに咲いた何人たりとて穢させない花。
    愛しているよ、それがどれほど歪んでいようとも。
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    連作幕の外

  • 魔女の愛はS級毒物

    20210107(木)20:16
    「ねえねえ、僕の血が入ってる僕が愛を込めて作ったとびきりのチョコレート。もちろん食べてくれるよね?」

    「何故S級ランク毒物を食べろと私は強要されているんだ?」

    「吸血鬼は血が好物デショ?」

    「魔女のお前の血は毒でしかないでしょうが」

    「そんな些細なこと気にしたら負けだよ?」

    「些細か?本当に些細なことか?」
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    ついったlog連作幕の外

  • ご主人と吸血鬼 番外

    20210107(木)20:12
    「ご主人の傍にいつまでも居ますよ。わたしはご主人のこと、大好きですから!」

    「はいはい、今ドラマ見てるから静かにして」

    「一世一代の告白をなんだと思っているんですか!?」

    「告白も何も、結婚してんだから傍に居るのは当然だろ」

    「わたしのご主人が素敵過ぎて泣きそう!」

    「はいはいドラマ」


    ***


    「なあ、吸血鬼」

    「なんですか、今にも死にそうな人間」

    「お前、俺が死んだら俺の血飲むの?」

    「っは?こぉんな不味そうな病人の血なんて飲んだらわたしの血が穢れます」

    「ひでぇ言い様」

    なあ、でも。

    「俺はお前になら吸い殺されてもいいけどな」

    「……馬鹿ですか。早くその病治しなさい人間」

    「はいはい」
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    ついったlog連作幕の外

  • 霊感少女とびびり先輩

    20201229(火)19:56
    好きになった先輩は、超がつく程に憑かれやすい体質でした。
    一体何を言っているのか普通の人には分からないかもしれないけれども、それが事実なのだから仕方がない。

    「せんぱーい。どうしてそんなにくっ憑けているんですか?」

    「もうこの際俺は何も聞かない。何も言わずに祓ってくれ」

    「んー。まあ、良いですけど」

    こう言ってはなんだが、先輩に憑いているのはこの辺では何十人とあの世送りにしたか分からない悪霊中の悪霊。まあ、邪神と言っても過言ではないモノだ。
    ソレに引っ憑かれている先輩は本当に可哀想だなぁ、と思いながら。
    私は先輩との関わりがまだあることに安堵しているのだ。

    「ナニ笑ってんだ神山」

    「先輩はなかなか面倒くさいモノに好かれるなぁと思いましてね」
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    散文続かない筈だったその後

  • 聖歌と聖火

    20201228(月)18:29
    こうなることが運命だと言うのなら、こんな世界僕が壊してしまいたい。

    「魔女に聖歌を、魔女に聖火を」

    静かに述べられたその言葉は、目の前の魔女に向けられる。
    聖なる歌は彼女の身体を蝕み、聖なる火は彼女の身体を燃やしていく。

    「ぅ、ぐっ」

    小さな悲鳴は小鳥の囀りのようで、この場の誰もが気にも留めない。
    これはショーだ。魔女狩りという名の、国民への見せしめ。
    浪費家の女王が思いついた、ただの暇つぶしとでも言えるかな?
    悲しい悲劇は止まらない。
    きっと誰もが思っている。

    ――女王こそが、魔女であると。

    誰もそんな言葉、言えやしないけどね。
    かくいう僕も、自分の大事な奥さんを火炙りにされながらなんにも言えない、愚かな人間のひとりなんだからさ。
    涙すら出ないなんて、薄情過ぎるかな?

    「魔女に聖歌を、魔女に聖火を」

    ああ、今日もまた女王の遊戯がはじまった。
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    散文

  • おやすみ

    20201123(月)19:42
    こんな感情は要らなかったんだ。本当だよ?
    でもね、きみに与えられた感情ならなんでも良かった。
    痛いでも、苦しいでも、哀しいでも、嬉しいでも。
    なんでも良かったんだよ。

    「でもね、僕。忘れていたんだ」

    きみには寿命があって、僕にはそんなもの無くて。
    永遠を生きる僕と人間のきみでは違い過ぎたね。

    「こんな感情、要らなかった」

    きみに与えられたすべてが愛おしかった。
    それでもきみに与えられたこの『空虚さ』だけは要らなかった。
    ぽっかりと空いたこの穴を、埋められるのはきみだけだっていうのに。
    皮肉だね?きみは綺麗な顔をしながら静かな穴の中で眠っている。

    「もう一度……」

    願っても、きみが還ってくるわけでもなし。
    僕の心にある穴だけが、きみが確かにこの世界に居た証になっている。
    ならば僕は生き続けよう。
    きみが与えてくれたこの穴を抱えて、きみを想って。きみだけを愛して。
    そうしていつかまた会える日まで。

    「おやすみ、いとしいひと」
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    散文

  • 天使の日

    20201004(日)21:15
    忘れてしまいたかった。
    それは事実で、きっと本音でもあったの。
    けれども忘れて欲しくもなかった。
    これも本心だった。
    彼が誰かと幸せになる未来を私はこれから祝福しなくてはならない。
    でもだからこそ、愛を司る天使たる私が保証するわ。
    その子は良い子よ、大事にしてあげて。
    遥か昔、幼い頃の友人よ。
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    散文ついったlogイベント事