小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • 不条理に拾い上げた命/噓つきが吐いた嘘 幕間

    20211212(日)19:47
    「死にたくない……!死にたくないんだ!」

    そう言いながらナイフを振る回す少年は、アタシに向かって走って来る。

    「そうは言われても、あなたここで死ぬのよ」

    「い、イヤだ……!」

    「嫌だって言われてもねぇ……」

    アタシは少しだけ悩んで、そうしてにんまりと口角を釣り上げた。
    その顔は良くチェシャ猫のようだと称される。
    結構気に入っているのよね、その表現。

    「おれは……まだ死にたくない……!」

    「それはきっと、どんな人間もそうなのでしょうねぇ」

    誰しも不条理に殺されたくはないだろう。
    その生を終わらせられたくはないだろう。

    「でも、だからこそ。アタシは不条理にあなたの命を拾いましょう」

    「え、」

    んふふ、と笑ってアタシはその日。殺す筈だったひとつの命を拾い上げた。

    いつか駒として死ぬその日まで。
    あなたの命を生かしましょう。

    きっといつかアタシも殺されるのでしょうけれども。
    それはそれ。その日まで楽しみに生きましょう。
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    散文連作幕の外

  • 誇り抱く桜の如く/悲桜

    20210731(土)12:37
    「劉桜様、桜綺麗ですね」

    「……そうだな」

    静かに呟く隣に立つ御方は、眩しそうに眦を下げ桜を見上げている。
    此処は地上と天界の狭間の場所。
    どうしても地上の桜が見たいと我儘を言って連れてきて頂いた場所。

    「お忙しい中、我儘を言って申し訳ありませんでした。でも、とっても素敵です。ありがとうございます、劉桜様」

    「構わん。……お前が喜ぶなら、それで良い」

    澄んだ湖面のような、落ち着いた声。大好きな声。
    ずっとこの時が在れば良い。いっそ止まってしまっても構わない。
    この御方と共に居て、この御方と共に朽ちたい。
    それ程までに想っているのに、運命とは皮肉なものです。

    「どういうことだ? 睡蓮」

    「天帝に申し上げた通りです。この子は──わたくしと貴方様の子です」

    目も開かぬ赤子を連れて、わたくしは嘘を吐く。この世でもっとも愛おしい御方に。顔で笑い、心で泣くとはこれまさに、ですか。
    自分がこんなにも平然と嘘を吐けるとは思わなかった。
    それでも守りたかった。この世でただひとりの片割れが遺した──忘れ形見を。
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    散文連作幕の外

  • 天高く指輪を放る

    20210731(土)12:13
    憎いのはきっと、他の女のところに行くあなたではなくて。
    その女が憎いわけでもなくて。
    きっと私は、私が一番憎いのだろう。

    「捨てられたら良かったのに」

    あなたに貰った安物の指輪。
    それが嵌められた左手を見ても、私は何も心動かない。
    動かないように蓋をした。

    「大嫌いになれたら、良かったのに」

    それでも私は、あなたを嫌いにはなれなかった。
    あなたを好きなまま、あなたを好きだと思う心を殺していく。
    それはなんとも滑稽で、なんて馬鹿なことなのだろう。
    でも、仕方ないよね。
    先に惚れた方が負ける。
    そんな言葉を思い浮かべながら、左手に嵌められた指輪を天高く放り投げた。

    「さよなら」

    今もどこかで誰かの上で腰を振っている、大好きで憎くて、愛おしいひと。
    あなたを本当に嫌いになる前に、さようなら。
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    散文

  • 止まれない、止まらない / レイヴン【烏】

    20210714(水)20:30
    止まれるなら、幾らでも止まっていた。
    きっと未来はあったのだ。
    幸せな道を歩む術もどこかにあったのだ。
    けれども俺は選んでしまった。
    『復讐』という道を。
    俺は決して後悔していない。
    ……いや、ひとつ、後悔をしているというのなら。

    「凉萌を巻き込んじまったことか……」

    幸せな道を消して、殺戮の道を歩ませ、復讐の道ずれにした。
    それだけが心残り。

    「謝ったら、殺されんだろうな」

    だから謝らない。
    俺はもう、止まれないから。

    「カナリアが戻ってくるわけでも、ないのにな」

    分かっている。分かっているけれども、どうしたって止まれないのだ。
    歩み出した道を戻るのは、どれだけの労力が要るのだろう。
    どれだけ生きれば、死ねるのだろう。

    「カナリア」

    もうすぐだ。もうすぐ、お前を屠った男が死ぬ。
    俺は俺に復讐する。
    それはもうずっと、変わらない俺の夢。
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    連作幕の外続かない筈だったその後

  • 照れ隠しパイナップル

    20210501(土)14:06
    投擲した果実は弧を描いて目標物にぶち当たる。

    「いってぇ!?」

    目標物、もとい男はキョロキョロと辺りを見渡し、私を見つけるとドシドシと音を立てながら近付いてくる。

    「おっまえ!毎回言うが、照れ隠しでパイナップルを投げるな!危ない!主に命が」

    「ふん。羽虫がうるさいですね」

    「可愛くねぇ…」
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    散文ついったlog

  • あの日のお味噌汁、美味しかったなぁ

    20210405(月)19:39
    世界にひとりだけ。
    きみだけが僕の特別で、何より大切な宝物。
    なのにどうしてかな?
    僕の手の中に来たきみが笑うことは、きみの生涯の中で一度もなかった。
    神である僕が、人であるきみを手に入れる為に行った非道なことを、きっと怒っていたんだろうね。
    あんなに笑顔を振りまいて、とても元気に走り回っていたのに。
    僕の元へ来た時には、何もなかった。
    きみは笑顔を失い、走る為の足には枷が嵌められていた。
    僕がきみを求めて、そうして指示したとでも思っていたのだろうね。
    恨みがましそうに僕をよく見ていたから。
    でも、僕はそこまで求めていなかった。
    人間が勝手にしたことなんだよ。
    それだけは確か。

    「僕はただ、きみに笑いかけて欲しかっただけなんだ」

    七十年という人にとっては長い時を生き、そうして老衰で死んだきみの亡骸を抱きしめながら、そっときみの頬に口付けた。
    塩辛い、味がした。
    いつか昔。きみがまだ若かった頃に作ってくれた味噌汁によく似ている。
    そう思ったら、また口の中が塩辛くなった。
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    散文

  • 蜜花

    20210304(木)19:31
    狂うほどに欲しくて堪らなくて。
    己の妻を捨ててでも彼女が欲しくて。
    否、正確には彼女も己の妻であったのだけれども。
    人狼は番を決めたら一生その手を離さず、傍に居続ける。
    相手が死んでも魂は共に在ると思うくらいには愛情深い生き物だ。
    なのに俺はいともあっさりと妻――正妻であった女――を切り捨て、突如として側室に据えられた彼女、ハイドランジアの手を取った。
    あの時の二人の顔はきっと一生忘れられないんだろね。
    まあ、もっとも。元正妻の顔は薄情にも忘れてしまったのだけれども。
    なんて、ハイドランジアに言ったら彼女は壊れた心でなんと言うのだろうか?
    分からないだろうね。この身に余る激情なんて。
    俺だって知らなかったのだから。こんなにも強い欲求があるだんなんて。

    「決して逃がさないよ、ハイドランジア」

    俺の為だけに咲いた何人たりとて穢させない花。
    愛しているよ、それがどれほど歪んでいようとも。
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    連作幕の外

  • 魔女の愛はS級毒物

    20210107(木)20:16
    「ねえねえ、僕の血が入ってる僕が愛を込めて作ったとびきりのチョコレート。もちろん食べてくれるよね?」

    「何故S級ランク毒物を食べろと私は強要されているんだ?」

    「吸血鬼は血が好物デショ?」

    「魔女のお前の血は毒でしかないでしょうが」

    「そんな些細なこと気にしたら負けだよ?」

    「些細か?本当に些細なことか?」
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    ついったlog連作幕の外

  • ご主人と吸血鬼 番外

    20210107(木)20:12
    「ご主人の傍にいつまでも居ますよ。わたしはご主人のこと、大好きですから!」

    「はいはい、今ドラマ見てるから静かにして」

    「一世一代の告白をなんだと思っているんですか!?」

    「告白も何も、結婚してんだから傍に居るのは当然だろ」

    「わたしのご主人が素敵過ぎて泣きそう!」

    「はいはいドラマ」


    ***


    「なあ、吸血鬼」

    「なんですか、今にも死にそうな人間」

    「お前、俺が死んだら俺の血飲むの?」

    「っは?こぉんな不味そうな病人の血なんて飲んだらわたしの血が穢れます」

    「ひでぇ言い様」

    なあ、でも。

    「俺はお前になら吸い殺されてもいいけどな」

    「……馬鹿ですか。早くその病治しなさい人間」

    「はいはい」
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    ついったlog連作幕の外

  • 霊感少女とびびり先輩

    20201229(火)19:56
    好きになった先輩は、超がつく程に憑かれやすい体質でした。
    一体何を言っているのか普通の人には分からないかもしれないけれども、それが事実なのだから仕方がない。

    「せんぱーい。どうしてそんなにくっ憑けているんですか?」

    「もうこの際俺は何も聞かない。何も言わずに祓ってくれ」

    「んー。まあ、良いですけど」

    こう言ってはなんだが、先輩に憑いているのはこの辺では何十人とあの世送りにしたか分からない悪霊中の悪霊。まあ、邪神と言っても過言ではないモノだ。
    ソレに引っ憑かれている先輩は本当に可哀想だなぁ、と思いながら。
    私は先輩との関わりがまだあることに安堵しているのだ。

    「ナニ笑ってんだ神山」

    「先輩はなかなか面倒くさいモノに好かれるなぁと思いましてね」
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    散文続かない筈だったその後