小ネタ

蜜花

2021/03/04 19:31
連作幕の外
狂うほどに欲しくて堪らなくて。
己の妻を捨ててでも彼女が欲しくて。
否、正確には彼女も己の妻であったのだけれども。
人狼は番を決めたら一生その手を離さず、傍に居続ける。
相手が死んでも魂は共に在ると思うくらいには愛情深い生き物だ。
なのに俺はいともあっさりと妻――正妻であった女――を切り捨て、突如として側室に据えられた彼女、ハイドランジアの手を取った。
あの時の二人の顔はきっと一生忘れられないんだろね。
まあ、もっとも。元正妻の顔は薄情にも忘れてしまったのだけれども。
なんて、ハイドランジアに言ったら彼女は壊れた心でなんと言うのだろうか?
分からないだろうね。この身に余る激情なんて。
俺だって知らなかったのだから。こんなにも強い欲求があるだんなんて。

「決して逃がさないよ、ハイドランジア」

俺の為だけに咲いた何人たりとて穢させない花。
愛しているよ、それがどれほど歪んでいようとも。

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