二次創作女夢主

望まぬ明日/アサ晶

2023/02/25 23:57
まほやく
 いつかあなたを乗せて飛んだ空であなたは言った。

「私がいつか居なくなっても、アーサーはどうか笑っていてくださいね」

 それは甘やかな毒のような呪いだと思ったけれど、きっと彼女の望みではないのだろうとも思ったけれども、私はその言葉に頷いた。

「賢者様が望むのなら、私はいつでも笑顔を絶やしません」

 賢者様は少し困った顔をされていたけれども、まだ幼い私に出来る精一杯の抵抗であった。今思えばかなり幼稚な抵抗であったが。
 私は、あなたが居なくなる未来だなんて要らないのに。
 あなたが居てくれる未来だけを望むのに。
 この世界は無情にも其れを好む。
 あなたと共にずっと在れたなら、私はどれほど幸せなのだろう。
 そう夢想して、思考して、けれどもこの世界は無情にも私から賢者様を奪う。
 まるで初めから存在しなかったと言わんばかりに賢者様は居なくなった。
【大いなる厄災】を退けたのは、それが私たちの使命だからだ。
 だけどこんなにも悲しいことが起きるなら、いっそこの世界など——
 そこまで考えて、自分が中央の国の王子であることを思い出す。
 思い出さなければ幸せだったのかも知れないなと、笑った。
 あなたが笑って欲しいと願ったから、笑ったのに。
 どうしてこの両の目からは涙が溢れて留まらないのだろう?
 

 遠い春を待っている。
 あなたにただもう一度逢いたいと。
 私の望みは、あなたが居る明日だけだった。

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