小ネタ

たとえば、

2018/04/23 20:00
続かない筈だったその後
短編(現代)『たとえばなし』


たとえば、

お前の柔らかな髪だとか。

たとえば、

案外、気の強いところだとか。

たとえば、

涙もろいところとか。

たとえば、

笑った顔が結構可愛いところだとか。


そんなところ全部含めて、好きだった。


そんなこと言われても、もう遅いんだけどなぁ。
大きな腹を優しく撫でながら困ったように笑う彼女がそう言ったかのように聞こえた。
そうだな、と俺も困ったように返す。

こんな例え話はどうしようもねぇよな。
だってお前は、もうこの世界の何処にも存在してねぇんだから。
この世界に存在する筈だったその腹の命すらも、生まれる前に消えてしまったのだから。

「なあ、」

なあ。これが都合の良い夢だと知っているから言うけれども。

「もっとお前を大事にしてたら、お前とそいつと三人で、幸せになれたかな」

「どうだろうねぇ、わからないなぁ」

返事があって驚いた。
けれど、ああ、これは都合の良い夢だからかと、そう気付いたら涙が出そうになった。
泣く資格なんて俺にはないのに。

「好きだよ」

ずっと昔から、好き、だったんだよ。
もう遅すぎて伝えられない言葉だけれども。
彼女は柔らかく微笑んだけれども、何も答えてはくれなかった。

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