小ネタ

さあ、生きて

2024/07/27 17:44
散文
 この世界で一番大事にしたかった存在だった。
 俺はそれでもその決断を下さなければならなかった。

「……魔女に、鉄槌を」

 静かに響いた声は、自分でも驚くほどに冷たくて。
 『魔女』と呼んだ彼女の顔を見ることが出来なかった。
 家臣に連れ去られる彼女は何も抵抗しない。分かっているのだ。
 少しでも抵抗すれば自分ではなく――俺の命が危険に晒されることを。
 俺は自分の保身の為に愛する妻を売り、殺すのだ。
 彼女が死ぬくらいなら、俺が死んでも良かったのに。
 それが『魔女』である彼女を娶った俺の覚悟だったのに。

『わたしが死んだら、きっとあなた、おかしくなってしまうでしょうね』

 ああ、そうだよ。俺はお前だけしか信じられない。
 この世界で、何よりも誰よりも、お前だけが大切なんだから。

『だから、わたしが呪いをかけましょう。魔女らしく、あなたに』

 やめてくれ、と思うのに。

『――』

 笑顔を見せる彼女は確かに呪いの言葉を吐いた。
 お前を愛している故に、何年経とうともきっとその呪いを解くことは出来ないのだろう。
 それが魔女――俺の妻が俺に与えた、祝福という名の呪い。

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