小ネタ

百日前

2024/06/22 18:16
散文
きっと切っ掛けなんて大したことじゃなかった。でも、私は由紀くんを守りたいと思ったから。だから私は由紀くんのことを今でも守っているのかも知れないね?
そんなことを由紀くんの友人の男の子に話せば、彼は「へぇ?」と面白そうに笑った。

「まるで由紀が誰かに狙われているみたいな話だ」
「きみは由紀くんと違って『コレ』が視える人間だろう?」
「まあ、視えたところで僕には何も出来ないんだけれどもね?」
「はは、冗談が過ぎるな」

きみにはあまりに巨大な力が隠されているじゃないか。まるで由紀くんを守る為にこの世界に舞い降りたと言っても過言ではないね。

「買い被り好きだし、どうして僕が由紀を守らなくちゃいけないんだい? きみが守り続けるんだろう」
昔から今まで。そうしてこれからも。
その言葉に私は静かに瞼を伏せて、小さく呟いた。

「私は、これから百日以内に死ぬだろう」
「……それが『先読みの力』で視た、これからきみに起きることなのかな?」
「そうだよ。ああ、由紀くんには言わないでおいて欲しいものだけれどもね」
「僕がきみとの約束を守るとでも?」
「守るだろう?」

何を当たり前のことを言っているんだとばかりにそう言えば彼は呆れた顔をしながら肩を竦めた。

「まあ、死人に口なしと言うくらいだしね。死ぬまでは言わないでおいてあげるよ」
「それでいい。感謝する」

最期まで私は由紀くんを守りたいし、最期くらいは正直静かな場所で眠らせて欲しい。
由紀くんは賑やかな人だけど、私のことがあまり好きではない。
でも、少し……ほんの少しくらいは泣いてくれるかも知れない。
望むのはその程度でいい。その思いだけで私はこれからの百日を生きていける。
大概な程に惚れてしまったものだ。たった一度。たった一度だけ助けてもらった。それだけなのに。

「私はね、きみにも感謝しているんだ」
「驚いた。きみは僕のこと嫌いだと思っていたから」
「今でもそんなに好きではない。でも、由紀くんの傍で見返りを求めずにいてくれる友人は少ない。それが私には嬉しいんだよ」
「……見返り、ねぇ?」

彼は少しだけ考える素振りを見せて、そうして「まあ、いいか」と笑う。

「僕はきみの秘密を握れたわけだしね」
「なんの話だ?」
「ナイショ」

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