小ネタ
海の中揺蕩う
2022/12/30 21:11散文
「海に行きたいわ」
そう言い出したきみは何故だか悲しそうな瞳をしていた。
「それはダメだよ」
海は彼女にとってとても危険な場所だから。
だから僕は首を横に振った。
「海に、いきたいわ」
もう一度同じ言葉を発する彼女。その瞳は相も変わらず悲痛な色を宿していた。
海に連れていけば彼女はもう二度と帰ってこれないだろう。
そう分かっているのに、どうして。
その尾びれは二度と大海を泳ぐことも出来ず、その美しい鱗は二度と海水を叩くことは出来ない。
彼女は人魚だ。海に居ることが当然なのはわかっている。
けれども――
「ねえ、どうして……」
「……海に、いきたいわ」
同じ言葉を繰り返す彼女は、壊れてしまっている。
二度とその心がこの世界に帰ってくることはないだろう。
海は危険だ。人間である僕と共に生きようとした彼女を殺そうとした。
だから僕はこの家で彼女を匿っている。――大切な家族に憎悪を向けられ殺されそうになったショックで壊れてしまった彼女を。
彼女が海に行きたいと、海で死にたいと、そう願っているのであれば叶えてあげればいいのかも知れない。
でも僕は弱いからか、それとも彼女に魅了されたのか。
それはもう分かりようもないけれども。
「きみを手放せない僕を、どうか許さないで欲しい」
許されたいだなんて思わないから。
どうか、どうか。
きみの心がもし帰って来てくれた時に、きみの傍に居られるのが僕でありますように。
そう言い出したきみは何故だか悲しそうな瞳をしていた。
「それはダメだよ」
海は彼女にとってとても危険な場所だから。
だから僕は首を横に振った。
「海に、いきたいわ」
もう一度同じ言葉を発する彼女。その瞳は相も変わらず悲痛な色を宿していた。
海に連れていけば彼女はもう二度と帰ってこれないだろう。
そう分かっているのに、どうして。
その尾びれは二度と大海を泳ぐことも出来ず、その美しい鱗は二度と海水を叩くことは出来ない。
彼女は人魚だ。海に居ることが当然なのはわかっている。
けれども――
「ねえ、どうして……」
「……海に、いきたいわ」
同じ言葉を繰り返す彼女は、壊れてしまっている。
二度とその心がこの世界に帰ってくることはないだろう。
海は危険だ。人間である僕と共に生きようとした彼女を殺そうとした。
だから僕はこの家で彼女を匿っている。――大切な家族に憎悪を向けられ殺されそうになったショックで壊れてしまった彼女を。
彼女が海に行きたいと、海で死にたいと、そう願っているのであれば叶えてあげればいいのかも知れない。
でも僕は弱いからか、それとも彼女に魅了されたのか。
それはもう分かりようもないけれども。
「きみを手放せない僕を、どうか許さないで欲しい」
許されたいだなんて思わないから。
どうか、どうか。
きみの心がもし帰って来てくれた時に、きみの傍に居られるのが僕でありますように。