小ネタ

誇り抱く桜の如く/悲桜

2021/07/31 12:37
散文連作幕の外
「劉桜様、桜綺麗ですね」

「……そうだな」

静かに呟く隣に立つ御方は、眩しそうに眦を下げ桜を見上げている。
此処は地上と天界の狭間の場所。
どうしても地上の桜が見たいと我儘を言って連れてきて頂いた場所。

「お忙しい中、我儘を言って申し訳ありませんでした。でも、とっても素敵です。ありがとうございます、劉桜様」

「構わん。……お前が喜ぶなら、それで良い」

澄んだ湖面のような、落ち着いた声。大好きな声。
ずっとこの時が在れば良い。いっそ止まってしまっても構わない。
この御方と共に居て、この御方と共に朽ちたい。
それ程までに想っているのに、運命とは皮肉なものです。

「どういうことだ? 睡蓮」

「天帝に申し上げた通りです。この子は──わたくしと貴方様の子です」

目も開かぬ赤子を連れて、わたくしは嘘を吐く。この世でもっとも愛おしい御方に。顔で笑い、心で泣くとはこれまさに、ですか。
自分がこんなにも平然と嘘を吐けるとは思わなかった。
それでも守りたかった。この世でただひとりの片割れが遺した──忘れ形見を。

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