Another Story

私が居なくなったら、大河はどうなるのだろうか?
そんなことをふと、考えた。
きっと何も変わらない、なんて、今更思わない。
私のことを深く愛してくれている人が、私の存在を受け入れてくれた人が、私が居なくなったことでどうなるか。
私はそれが、少しだけ怖かった。

「アホやなぁ」

「これでも真剣に言っているのよ?」

「俺も真剣にアホやなぁ、って思っとります」

「酷いわ」

「……俺はきっと、瑠璃葉が居なくなった世界でも息は出来るよ」

それはそうでしょうね。と思いながらもどこかで寂しいと思う気持ちは傲慢なのかしら?

「でも、」

大河は続けて言う。

「俺はきっと、瑠璃葉が居ない世界では生きてかれへんよ」

「なぁに、それ」

なんなのだろう?この人は。この優しい人は。この狂った人は。私が彼の人生を捻じ曲げてしまったと言うのなら、それはすごく。

「ナニ?嬉しそうな顔して」

「してないわ」

「してますー」

「してないってば」

「ふふ、ええんよ。気ぃ使わんでも。……二人でもっと、ずっと、狂ってしまおうね」

この人の傍は居心地が良い。
とてもじゃないけれども、離れられそうにはない。

「気が向いたら、そうするわ」

嘘だ。その申し出はとても多幸感を覚えた。
けれどもどこかで私はやはり遠慮のような思いを抱えるのだ。この優しい人をここまで変えてしまったことに対する申し訳なさが。

「何か変なこと考えてるんやったら、一生かけて俺の傍に居ってや」

「……考えておくわ」

考えておく、だなんて言って。きっと私は離れられないのに。
大河が私を要らないと、そう言う日まで。私からは離れられないのに。
そこまで好きになってしまったのに。
こんなに好きになるくらいなら、出逢わなかった方がマシだった。
けれど同時に思う。
大河に出逢えなかった未来を、過去を、現在を、私は想像出来ないと。

「結局、離れられないのね」

「せやで?だから大人しく、俺のこと好きなままで居ってや」

にっかりと、太陽のように笑う彼はとても眩しいのに。
彼の傍こそが居心地が良くて。
ああ、本当に。離れられそうにはなくて困ってしまうわ。
困っていないことが、困ってしまう。
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