SS 81~100

「愛情?とうの昔に枯渇していますが何か?」


堂々とそう言ってやれば、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
先程まで見知らぬ女と何度目とも知れない浮気をして、それを見付けた私に平謝りをしていた恋人が驚いたような顔をしながら凝視してきた。


「……なんだよ、それ」

「なんだと言われても、貴方が聞いてきたんでしょう?」


どうして浮気をしているのに、泣きも怒りもしないのだ、と。
それが答えだ。
私が貴方に対して向けていた愛情なんてとうの昔に枯渇している。
だから貴方が誰と何をしようが関係ない。興味がないのだ。


「じゃあ、どうしてまだ俺と付き合ってんだよ!」

「好きだから、」

「……!」

「なんて答えではない事だけは確かだよね」


ただの惰性だよ。
そう答えたなら、恋人は悲痛そうに眉を寄せた。


「どうして他にばかり目移りしていた貴方の方が辛そうな顔なんてするのよ?縛られるのが嫌いな貴方なら、むしろ嬉しい事でしょう」

「……き、だから」

「え?」

「好きだから。だから、嫌だ。お前が俺を好きじゃないなんて、そんなこと許さない!」

「許さないとか、そんな言葉を貴方が言える立場には居ないと思うんだけどなぁ」

「っそれは!」

「大体貴方、どうして浮気なんてしたのよ?」


恋人の言動から私に飽きてとかではないとは分かった。
けれどなら、どうしてそんなことをしたのか。
それが私には分からない。


「……それは、…お前に愛されてるって実感したかったから…」

「……へぇー」


へぇー。ふーん。
それってさ。


「普通に考えて逆効果でしょ?浮気なんてされたら愛情も冷めるっての」


浮わついた気持ちと書くから浮気なんだよ?
気持ちが浮わつくということは、つまり愛が冷めてきたって誰でも思うでしょう。


「だから本当のところ、貴方は私を愛してなんていなかったのよ」

「違う!俺は確かにお前を、」

「愛してる、だなんて言わないでよ?言われても反応に困るもの」


私はもうとっくに貴方への愛を枯渇させたのだから。


「そんな面倒なことを考えているなら、もう別れよう」

「っ、いやだ!」

「拒否権があると思うの?先に浮気をしたのは貴方だよ?」

「それでも、いやだ」

「嫌だ嫌だが通じる訳がないでしょう?」


それにね。


「もう手遅れなんだよ。私達は」


貴方が浮気をした時なのか。
私が愛情を枯渇させた時なのか。
それはもう、分からないけれど。


涙を浮かべながら「ごめん、もうしないから……、だからもう一度俺にチャンスをくれっ!」と縋る恋人を、私はただ乾いた心で見つめていた。
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