SS 81~100

「……死ぬの?」

「……そりゃあ、死ぬんでしょうね」


憎まれ口ばかりで、まともに会話だなんて交わした事もなかった。
訓練生時代から、こうして戦地に出るまで一度も。
意味が合ったのかと言われると、何と答えていいのか分からない。
ただただ息をするように悪態を吐き合っていた気がする。
それは今だって変わらない。


「お前みたいな五月蝿い奴が居なくなると思うと精々するよ」

「……奇遇だね?私もアンタの顔を見なくて済むかと思うと踊り出したくなるくらい嬉しいわ」

「……ねえ、そんなに喋れるならさ。本当はまだ死なないんじゃないの?」

「いやぁ、……これはちょっと、そんな楽天的な見方は出来ないデショ」


ぐったりと横たわる女の軍服は、元の色がなんだったのかと考えてしまう程に赤に染まっている。
これが全て返り血だったなら、なんて何を考えているのか。
さっきも言った通り、コイツが死んでくれて精々する筈なのに。


「そうみたいだね」


どうしてもっと、コイツが苛立つような言葉を吐けないのだろう。
どうして何も言葉が出てこないのだろう。


「……あのさ、」

「なに」


女が口を開く。


「私、アンタのこと結構好きだったよ」


やめてくれ。
そんな言葉を諦めたような顔で、笑いながら言わないでくれ。
俺達の間に、そんな言葉は不似合いだろう?


「……そう。俺はお前の事なんて嫌いだよ」


今も昔も――これからも。


「そっ、かぁ」


ふふ、なんて笑って――女は喋らなくなった。
ピクリとも動かなくなった。
俺はただ、今この瞬間にただの肉塊になってしまった女を見る。
大した考えは湧かなかった。
大した事ではないと思った。
ただ明日から静かになる、それくらいの感慨だった。



――だからこの頬を伝う生温い感触は、きっと大したモノではないのだ。
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