SS 81~100

※暴力・死ねた表現有り




髪を鷲掴まれ、上を向かされると捩じ込むように口内に銃口を突っ込まれた。
グッと潜もった声が喉の奥から洩れ出る。


「どうしてこうなっちゃったのかな?」


無機質に響く男の声に、私は眦を下げた。

どうしてこうなったか、なんて。
そんなの私がアンタの敵でアンタが私の敵だからに決まってるでしょうが。

喋る事が出来ないから、内心で悪態を吐く。


「ねえ?死にたい?」


何を聞くのかと思えば、男の言葉に呆れた視線を向ける。
死にたいも何も、殺す気満々なクセに。
それともみっともなくも懇願すれば私を助けるとでも言うのだろうか?
いや、そんな生温い事をこの男がする訳がないか。


「ねえ。ねえ、何か言いたいこと、ある?聞いてあげるよ?」


男の言葉に目蓋を閉じて否定を表した。
言いたいことなんて、今更有りはしない。それ以前に銃口を口に突っ込まれたまま、どうやって喋れというのか。

男は何か言いた気な視線を私に向ける。
けれどすぐに興味が失せたのか、つまらないと呟いた。


「普段お喋りな奴が喋らないってのは中々つまらないね」


そのお喋りな口に五月蝿いと銃口を捩じ込んだのはアンタじゃない。


「その体勢、ツラくなってきたでしょ?つまらないし、もう時間もないから――そろそろ楽にしてあげるよ」


楽しげな色を含んだ男の声。引き金に人差し指を掛けた所が見えた。
確かに口に美味しくもない銃口を突っ込まれてそれなりにツライ。
引っ張られている髪もブチブチと千切れてしまって、痛いよりも何よりも、私のキューティクルに何してくれとんじゃワレェ!といった感じだ。
どんだけキューティクルに命掛けてると思ってんだ、ああ゙?

男も言っていたが、普段から下らない事をベラベラと喋る私が口を塞がれるというのは中々可笑しなテンションを呼び起こすみたいだ。
だがしかしキューティクルに命をかけているのは本当。
こんな物騒な仕事をしているからそれくらいしか楽しみがないんだぞコノヤロー。と今すぐ声を大にして男に言いたい。

明確に迫りくる死への恐怖なんて柔なものはない。
ただただ喋れない事へのストレスが溜まってそれこそ死にそうだ。


あー、喋りたい。


ま、現実に向き合うとするならば、確かにこんな恥でしかない姿を晒させられ続けるのならば、一思いに殺された方がマシだよね。
そんでもってどうせなら。
最期の瞬間まで私を殺す男の顔でも嫌がらせに見てやろうか。
少々苦しいが顎を少しだけ上げ、視線を男に向ける。


「覚悟出来たの?」


私のそんな仕草にコテンと首を傾げた男。


覚悟?そんなものとっくの昔に出来てるよ。


ふ、と男の言葉を肯定してやるように頬を緩めた。
それを見て、男もニコリと笑う。


「そっか。じゃあ、お別れだね。あの世では良い夢を見れるといいね?――おやすみ。……愛してた」


――パァン


男の言葉を最期に、空気を割くような甲高い銃声が聞こえた気がした。
喉から内臓に向かって撃たれるかと思ったのに、どうして頭を撃ったのかな?
確かに喉から撃たれるより頭に撃たれた方が余程運が悪くなければ即死間違いなしだけど。
そんな所で情けでも掛けたつもりなのかな?
はは。ふざけてるねぇもう。
アンタにそんな情けをかけられたくはなかったんだけどなぁ。
私達はあくまでも敵対している者同士だから。
それは最後まで崩したくはなかったしね。


ああ、でも。私を逃がしてくれるような甘さは見せないくせに、死ぬ間際でようやく愛の言葉を言える関係なんてのも良いかもね。
私はアンタにそんな甘い言葉を言えなかったけど、アンタが一生片想いで苦しむってのも中々に良さそうだ。


だってほら?
アンタの中には私が一生居るんでしょ?
それが死に顔ってのは納得出来ない気がするけれど。
それでもアンタの中で強く私の存在が根付いているというのは、中々に気分がいいものだわ。



――例えば生まれ変わったとしても覚えていたいくらいにはね?
3/20ページ