妖の王と巫女姫

この感情を誰が『愛』などと言うか。
きっとこの感情は、そんな可愛らしいものではないのだろう。

「蒼牙様。わたくしは誰のモノにもなれないのですよ」

そう優しくいう女はあまりに甘やかで、けれどもその言葉の中には優しさの欠片もない。
常に笑みを浮かべるその女。その瞳の奥は微塵も笑ってなどいない。
ずっと何かに苦しんでいるような、そんな顔。

「和泉。お前は何に苦しんでいる」

その苦しみから解き放つことは、私に出来るか?
そう言おうとして、何も言えなかったのは。
ひとえに、和泉が何も言うなとばかりに微笑んでいたから。

「……和泉」

何も言わない、言わない代わりに頬笑む和泉が痛々しくて、その細い身体を抱き締めた。

「蒼牙様……?」

胸の中に閉じ込めた和泉を、何処にも行かせないように。
壊れモノのように扱う術を私は知らないから、それでも己の爪で傷つけないように強く強く抱き締めた。


この娘が好きだ。
どうしようもなく、想っている。


なのにどうして、この娘には伝わらないのだろう。
どうして、和泉は悲しそうに微笑むのだろう。


分かりたいと思った。理解したいと思った。
この娘のことを、ただひとりの男として。


――愛したいと思った。
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