SS 61~80

人間が『魔王』から平和と安寧を勝ち取った。
魔王を討った私の名は、世界中に知れ渡る事となった。

きっと誰もが心の底から平和を喜び、これから先、魔物に襲われる心配もないと胸を撫で下ろした事であろう。

私だってそうだ。
もうあのグロテスクな魔物と命懸けの死闘を繰り広げなくて済むと思えば嬉々として小躍りくらいはしたくなるし、何なら魔物をもう見ないかも知れないと思うと顔の筋肉も弛むというもの。
人間界に居た魔物は全て、魔王が死んだ瞬間、魔界とやらに引っ込んで行ったから。

もう人間が魔物に怯える事は次の魔王が産まれるまではないし、いつ命を奪われるかと不安に駆られる日々にも終わりを告げられた。


「その筈、なんだがな」


胸に巣食うのは、達成感でも喜びでもなく。
ただただ何処までも続く暗闇を見続けるかのような虚しさだけで。


「まあ、しょうがないか」


例えどれだけ国が、世界が。
この勝利を喜んだ所で。
私の幸せの形とやらは、もう二度と叶わないのだから。
お前が死んでしまった時に潰えてしまったのだから。


「……なあ、魔王」


私はお前と幸せになる気だなんて更々なかったし、何ならお前を殺す気しかなかった。
それに私達の関係性が『勇者』と『魔王』でなければ出逢うことすら無かったと言うのなら、私はお前と出逢った事を後悔する事さえないのだろう。


けれど。


それでも。



「一度くらいは、お前の名を呼んでみたかったよ」



それはもう二度と叶わない夢で、夢見る事すら罪なのだけれど。
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