SS 61~80

「ご主人様。私にご命令下さい」


恭しくご主人様の足元に跪いて右手を心臓の上に添わせる。
ご主人様にから命令を聞く為だけに全ての神経を耳に集中させれば、ハッと鼻で嗤う声。


「貴方、それで本当に満足するの?」

「……それは分かりません。ですがご主人様が『満足しろ』と仰るならば」

「それすらも受け入れて見せる?」

「……はい」

「ふぅん。そう」


それだけ言って、ご主人様は私を見下ろす。


「貴方がそれで満足するなら、」


命令してあげないこともないけど。


「でも条件があるわ」

「それは、なんでしょうか?」



「私の命令を、キチンと守ること」



ご主人様の言葉に、そんなことかと口端を上げてしまった。
私がご主人様の命令を破る訳がない。
ご主人様の命令を聞くことだけが私の細やかな幸せなのだから。


「勿論。ご主人様の望まれるままに」


貴女の願いならばなんだってお聞きしますよ。



「……なら、」






「これから私は1人で学校に行くし、1人で着替えるし、1人でご飯も食べるし、1人で寝るから」

「それだけはお聞きする事が出来ません」

「私の命令なら何でも聞くんでしょう?聞きなさいよ」

「何でもと申しましても、ご主人様。どうか私の生きる希望を奪わないで下さい。貴方のお世話をする事は私の生きる糧なのですから」

「そんな気持ち悪い糧でしか生きられないならいっそ死ねばいいのに」

「ご主人様が私の死を望まれるのでしたら喜んで」

「……だから貴方に命令とかしたくないのよ」


はあ、と額に掌を押し当てて、にこやかに微笑みを浮かべる執事に向かって、今日も駄目だったと盛大な溜め息を吐いた。
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