ご主人と吸血鬼

「お外出たいですぅぅぅぅ」

その叫びを新聞を開きながら聞いていた俺は即座に突っ込んだ。

「外に出てもいいけどお前焦げるだろ」

「そうですけど!そうですけどぉ!でも家事全部終わっちゃって暇なんですよぉ!」

「ああ、そりゃ最近毎日ひたすら掃除洗濯料理の仕込みしてたもんな」

お陰で家には塵ひとつない。
こいつは案外綺麗好きなのだ。そして凝り性でもある。

「だって日が照りすぎて夕方ですらお外に出れなくて暇だったんですもん!地球がハッスルしすぎです!」

「あー、まあ、夜中も暑いしな」

「折角ご主人がお休みなのにデートも出来ない!」

ダァンとテーブルを叩きながら言う吸血鬼。

「俺が居るだけじゃ不満だって言いたいのか?あ?」

「そんなことあるわけないじゃないですか!」

「お、おう。……なんかお前ホラー映画みたいな状態だぞ。主に髪の振り乱し方とか」

だって、と吸血鬼は鼻を啜りながらこちらににじり寄って来る。
本当にホラー映画か。ちょっと怖いぞ。

「ご主人がお家に居てくれてめちゃくちゃハッピーですよ?……ただ、夕方のデートもこの暑さと日射しじゃできないんだろうなぁって思うと……夏を滅ぼしたくなります」

「お前の好きなスイカとトマトが出来る季節でもあるけどな」

「ああ、美味しいんですよねぇ。この時期のはやっぱり。それに安いですし。まあ、ご主人の血には敵いませんけど」

「……そういえばお前、最近血が欲しいって駄々こねねぇな」

「そりゃこぉんな暑さでご主人から血なんて貰ったら、ご主人死んじゃいますもん」

「別にそこまで柔じゃねぇよ」

「ご主人に倒れられたら困っちゃいますから誘惑には負けません!涼しくなるまで我慢しますよー」

それに、人間は弱いって知ってますから。
スゥっと何処か遠くを見つめる吸血鬼は、心ここに非ずといった雰囲気だ。

「……ぐでんぐでんのお前見てるくらいなら、血ぃ抜かれた方がマシなんだけどな」

それが嫌で。いつも嫌で。
俺は対抗するように言葉を発する。

「何か言いました?」

「我慢のし過ぎで反動が怖ぇなって言ったんだよ」

「あはは。大丈夫ですよー。ご主人は寿命が来るまで、天寿を全うするまで、私が何がなんでも死なせません」

ふわっと微笑む吸血鬼はやっぱり俺を通して何処か遠くを見ていて。

「お前は何を見ているんだろうな……」

ぼそりと呟いた言葉は、吸血鬼が発した「お昼の情報番組の時間でした!」という言葉によって掻き消された。

というか俺が女優に現を抜かすのはダメでイケメンの司会者を見るのは良いのか、おい。
8/14ページ