SS 61~80

「……あ、すみません」


角を曲がろうとした時、同じく角を曲がろうとしただろう男性とぶつかってしまった。
軽く会釈をしながら謝って、そのまま通り過ぎようとする。
と、何故かガシリと腕を掴まれた。


「……なんですか?」


振り返って軽く見上げれば、そこには何故かキラキラと瞳を輝かせたイケメンさん。
うん?と内心で首を傾げる。


「……あの~?」

「ああ、すみません。あなたが理想的なまでのぶつかり方をして下さったものですから、つい」

「……はい?」


はい?だよね。私可笑しくないよね。可笑しいのはどちらかと言うとこのイケメンさんだよね?
てかいつまで腕掴んでるんですか。いい加減離して下さい。


心の中でそこまで思った所でイケメンさんは私の腕を離さない。どころか益々強く腕を掴んでくる。
若干の痛みに眉を寄せると、イケメンさんは「はぁん」と気が抜けるような声を上げた。


「その表情……いいっ。まさに理想!」

「は、あ?」

「苛立ったその声もイイ!華奢で今にも折れそうな身体を持った女性から嫌悪を含んだ眼差しを向けられるだなんて今にも俺の愚息が爆発しそうです…っ!」


そのまま爆発すればいいんじゃないですか?
そうしたらそのまま警備員に引き渡しますから。


そんなことを思った私は悪くない。全くもって悪いわけがない。


段々とヒートアップしてくるイケメンさん、改めて変態は私の腕を掴んだまま更にペラペラと言い募る。


「あなたのような理想的な女性に出会えたのはきっと運命だ!是非とも俺を飼ってくれませんか?ご主人様っ」

「飼ってとか言ってる癖に既にご主人様呼びって、それもう飼われること前提だよね?いや、飼わないけど」

「何故ですか!?自分で言うのもなんですが、お買い得だと思いますよ?」

「お買い得感を粉砕する勢いの変態度合いだからだよ。むしろ何故あなたを飼うことを私が了承すると思ったし」

「だって俺、顔は良い方ですし」

「自分で言うか。言っとくけどあなたの場合『ただし中身は保証出来ない』って言葉が付属品として付いてるからね?」

「些細な事だと思いませんか?」

「多大な事だと思いますよ」


これは埒が空かないなとは思うが、だからと言って口を動かすことを止める気はない。
止めた瞬間、この変態に屈したような気がするから。


「ていうかいい加減にして下さい。初対面でそんなこと言われたら正直ドン引きです」

「……それはつまり、初対面でなければ良いんですね?」


キランと変態の目が光った気がした。
それと共に感じた寒気にぶるりと震える。


「それではあなたに知って頂けるよう、明日から付き纏わさせて頂きますね!意地でも」


ニコニコと嬉しそうに笑う変態の言葉に私はヒクリと頬を引き吊らせた。




その翌日から私が住んでいるアパートまで来てわざわざチャイムを押して起こしに来た。
有難いのか迷惑なのか、迷惑だな。うん。
家なんて教えたつもりもないのに玄関を開けた瞬間変態がにこやかに立っていて不覚にも変態の本気を感じてしまった。


「ご主人様!ご主人様を忠犬のようにお迎えに来た俺にご褒美を…!」

「勝手に来たあなたにご褒美を上げる必要性って何処にあるの?うん。てかお願いだから息を荒げないで」
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