2020年バレンタイン

「白龍様」

「……なんだ」

事後の気だるい雰囲気の中、ふと、陽華に話し掛けられた。
俺はなんだと声を掛ける。その声に色がないのを感じて、己でもそこまで自分を自制出来るものなのかと驚いたものだ。

「アーベレッチェの誕生会の紹介状が届いておりましたが」

「アレなら破いて捨てたが」

「白龍様がそうされるのを見越してなのか、私の元へも届いておりました」

「は、」

自分にしては間抜けな声が出たと思った。けれどもそうなるのは仕方がないだろう。
あの女、また余計なことを仕出かしたな。今度会ったら今度こそ殺す。
強い殺意を込めながら、陽華が差し出してきた招待状を破り捨てた。

陽華は何も言わない。何も言わないように、躾けた。
陽華は俺の犬だ。従順なまでの、俺の犬。
それ以上でも、それ以外でもない。

……気付いてはいけないのだ。この身の内に秘められた感情には。
俺が先に死ぬか、陽華を殺すのが先か。それは分からないけれども。

「白龍様」

「なんだ」

「――お情けを」

「……」

その言葉で、俺達は再びベッドの中、シーツの海の中に沈んでいった。
この時間に永遠と居られたら良かったのに。
そう願えない程には、俺の手は汚れ過ぎた。
きっと堕ちる先は地獄だろう。けれども構わない。
そこにはきっと、俺が求める楽園があるのだろうから。
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