黒バス

捨てないで捨てないで捨てないで。
君達の役には立てないけど、君達を支える事は出来るから。


だから僕を、


「お前、もういらねぇわ」


吐き捨てられたその言葉は、僕の心を壊すには十分だった。


僕が弱いからダメなんですか?
僕に才能が無いからダメなんですか?
僕が、女だからダメなんですか?

ねえ、どうしたら君達に僕の声が届きますか?
どうしたら僕を捨てないでくれたんですか?

「ふはっ。つくづくむかつく野郎共だなキセキの天才様は。なあ。お前もそう思わねえか?」

掛けられた声に、振り返れば特徴的な麿眉。

「僕に何か御用ですか?『悪童』さん」

「そう突っかかんなよ、俺はお前に話があってきたんだからよ」

「そうですか、僕には話なんてありませんよ」

「――あいつらのせいでバスケが出来なくなった。あいつらのせいでバスケが嫌いになった。でも何処かであいつらを救いたいと思ってる?」

「は、?」

なんで、

「何で分かるかって顔してやがるな。全部お前の顔に書いてあんだよ」

「……僕これでもポーカーフェイスが売りなんですけどね?」

「ふはっ。そんな顔でポーカーフェイスだ?誰も気づかねぇなんてよっぽど自分で手一杯なんだなぁ。天才様は」

「その顔がどんな顔か分かり兼ねますが。……どうなんでしょうね?もう随分彼らとは事務的な会話しかしていない様な気もしますし」

全中が始まる前。いや、春頃からか。
彼らとまともに会話をした記憶もないし。退部した今。彼らと話をする事も、もうない。

「死んだ目」

「はい?」

「今のお前、目が死んでるんだよ。だからいくらポーカーフェイスだろうが誰でも気付く」

「ああ、それは確かに」

目は口ほどにモノを言うといいますしね。

「でも僕は影が薄いので基本的に存在を気づかれませんから、多分誰も気付いていませんよ。貴方に指摘されて初めて自分で気付いたくらいですし」

そう言えば悪童、花宮さんは愉快そうに麿眉を跳ね上げた。

「――なあ。黒子。お前霧崎に来いよ」

「は?何故ですか?」


というか何でそんな話になっているんですか?
そう言おうと口を開いた。
けれどその言葉は口から溢れる前に喉の奥で潰された。

「お前を捨てた天才様に、復讐したくねえか」

「……また随分と過激ですね」

ああ、でも。そうですね。
捨てた事を後悔させるのは良いとしても、

「僕からバスケを奪った彼らを許せないのは変わりありませんね」

ボールの跳ねる音も、バッシュのスキール音も。ボールがゴールに入る瞬間の歓声も。
何もかもが煩わしい。
バスケが全てだった僕から、バスケへの情熱を奪った彼らを許す事を、僕はしない。
言ってしまえばバスケが嫌いになったのだからどうでもいいと片付けてしまっても構わない。
けれどそれではあまりにも僕の腹の虫が収まらないから。

「いいでしょう。貴方に潰されていく彼らの姿を、貴方のすぐ傍で見させて頂きます」

女だから出来ることは少ないけれど。
それでも良いというのなら、無様な彼らの姿を僕にも拝ませてください。

「ふはっ。お前も相当歪んでやがるな」

「そうですか?それは彼らに感謝しなくてはいけませんね」

「盛大にお礼してやらなきゃいけねえなぁ」

「ふふ。それは楽しみです」

お礼は盛大に。
もちろん、お返しも歓迎しますよ?
但し、倍返しで返しますけど。
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