SS 41~60

コシコシと目を擦っていれば、呆れた声が掛けられた。


「眠いなら寝れば?」

「……んー、やぁだ」

「ヤダって、そんな眠そうな声出してるんだから早く寝なよ。明日も早いんだろ?」

「そーだけど、まだ一緒にいたいから寝たくない」

「……俺まだレポート書いてるし、ここで落ちられて寝室まで運ぶのもヤなんだけど」

「んー…へーき。へーき。捨て置いといてくれていいよー…」

「いや。出来るわけないだろ」


そんな言葉が聞こえたけれど、今にも眠りの底に就きそうなのを寸でで堪えているので口を開くのも億劫だ。


うつらうつら。
こくりこくり。
船を漕いでいれば、「ああ、もうっ」と大き目な声がした。
普段だったならビックリして肩を跳ね上げさせているけれど、今は眠くてイチイチ反応することもない。


「んー…?どーしたのー…?」

「……寝るぞ」

「れぽーとは?」

「まだ期限あるから平気」

「でも、まだわたしがんばれるよ?」

「舌ったらずに喋ってるのに何言ってんだよ。もう無理だろ。俺も寝るから寝室行くぞ」

「はぁい。……あ、くっついてねてもいーい?」

「………………好きにしろ」


彼は、恥ずかしがり屋で尚且つ照れ屋さんだから、滅多に抱き着いて眠ることを許してくれない。
それどころか少しでも身体が触れれば直ぐに離れてしまうから(まあそんなところも好きだから別にいいんだけどね)その言葉はかなり勇気がいったであろう言葉だと思う。
睡魔に教われていなかったなら大袈裟なくらい喜んでいただろう。


「ふふ。じゃあねよー?」

「ああ、ってこら!そこで寝んな。運ぶのめんどいって言ってるだろ」

「んー……わかってるわかってる」

「ぜんっぜん分かってねぇだろ」


「ったく。しょうがねぇなぁ…」そんなことを呟いたかと思えば、突然感じた浮遊感。
眠い身体にふわふわと浮いた感覚が気持ち良くて、段々と眠りが深くなっていく。


あともうちょっとで完全に睡魔に負ける。
そんな時に耳、というよりも意識に直接響いた、大好きな声。


「…………いい加減にしねぇと、襲うぞばーか」


その声に答えようと思った瞬間、意識は完全にフェードアウトしてしまった。


だからその後、彼が自分のその言葉に照れて顔を真っ赤に染めていたことを私は知らずに。
彼の出てくる幸せな夢の中をだらしない顔をしながら満喫していた。
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