SS 41~60

※いとしい人魚の人間視点で出会い



それはそれは美しい人魚を手に入れた。
元は俺の機嫌を伺いに来る奴らが貢ぎ物として置いていったものだが。


(美しい…)


白銀の髪を持ち、七色に輝くヒレを持つ人魚は俺をただ睨み付けていた。
気に食わないと言わんばかりのその目が気に入り、俺は早速自分の部屋に人魚の入った大きな鉢を運ばせた。
幸い王族に連なる貴族である俺の部屋は広く、鉢が1つあろうが狭くもなんともなかった。
人魚の前に椅子を置いて、未だに俺を睨み付ける人魚に問い掛ける。


「お前、名前は?」

「……」

「名前は?」

「……しろがね」

「白銀?お前にピッタリな名前だな」


コポコポと鉢越しだからか、少し聞き取りずらかったが名前を口にした人魚。白銀にニコリと微笑みかける。
白銀。髪と同じ名を持つ、俺の人魚。
椅子から立ち上がり、鉢に手のひらを押し付けた。


「白銀。今日からお前は俺のものだ」

「……私は私のものだ」

「ふふ。口答えなんて可愛らしいな」


俺に口答えする奴なんてそうそう居ないから、新鮮な気分だ。
美しい人魚が悪態を吐く様も中々に楽しい。
囚われている身でありながら、俺に歯向かってくるなんて愛しい以外の感情が浮かばない。


ああ。愛しいなぁ。
本当に可愛らしい。


「そうだ」


可愛らしい白銀がもっと可愛らしくなる為に。


「白銀。手始めにお前の美しい声を奪ってしまおうか」

「……っ」


息を呑んだ白銀。
俺はそんな白銀を気に掛けることなく鉢越しから白銀の首を掴む真似事をする。


「人魚は助けを求める為の『コエ』があるそうだね?そんなことはさせないよ」

「い、やだ」

「拒絶したって変わらない。まあもっとも白銀はそこから出ることが叶わないんだから拒絶なんて出来ないか」


日に当たらないせいか透き通るように真白い肌を青ざめさせて、白銀は何処かに逃げ場がないかと視線を彷徨かせる。

可愛い子だ。
鉢の中に囚われているのだから、逃げることなんて不可能だというのに。


(安心しなよ)


あまり痛くないように、綺麗に傷を付けてあげるから。


内心でほくそ笑みながら、ただ青い顔を泣きそうに歪ませる白銀を鉢越しに見つめた。
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