twst夢小説

おやすみ、と言われておやすみなさい、と返せる。
それは何よりも幸せなことなのだと思っていた。
それでもやっぱり思うんです。
私は異世界人だから、いつかあなたの前から忽然と消えてしまうのではないのかと。
そう思うととても怖くて、眠れない夜を過ごす日もあったけれども。
いつもそんな時、突然現れたかと思うと無言で傍に居てくれた。
そんなあなたが今日、結婚する。

「レオナさん。それ本当に新郎の顔ですか?」
「うるせぇな」
「何かご不満でも?」
「オレ以外の奴に見せびらかすつもりだったんだよ。最初はな」
「はぁ……、そうですか」
「だが、……癪だな」
「何がですか?」

きょとんとレオナさんを見やる。褐色の肌に雪のような民族衣装は新郎という言葉を見事に表している。夕焼けの草原でも婚礼衣装というものは白なのかと感慨深いものを感じたものだ。

「お前を見せびらかすのが、嫌だって言ってるんだよ」

ムスッとした顔をしているレオナさんに、そんなに変な格好してます? なんて冗談が言える空気でもなかった。
レオナさんと同じ純白の婚礼衣装は私を包む。

「私は、レオナさんの横に立っていたいですけどね」

これから先も、ずっと。
そう笑って言えば、レオナさんは降参だとばかりに肩を竦めた。

「今なら逃がしてやる、そう言ったらお前どうする?」
「え? 本当に逃がしてくれるつもりあるんです?」
「……例えば、だよ」
「ふふ。そんな気ないくせに言うんですね」
「……悪いかよ」
「いいえ、私はそんなところも含めてあなたが好きなんですから」

そう告げればレオナさんは驚いた顔をした。どうしたのかしら? と思えば、卒業後王宮に仕えることになったラギー先輩が呼びに来た。

「お二人さん。準備はいいッスか?」
「はい、大丈夫です」
「おい! お前、なんで今、」
「なんのことですか?」
「お前……っ、ホント。覚悟してろよ」

じろりと睨まれながら言われた言葉に、あらまあ、なんか煽ったんスか? とラギー先輩は可哀想なものを見る目で告げてきた。

「いえいえ。初めて愛の告白をしただけのことですよ」
「そうッ、ス……初めて!? アンタ達付き合って何年目ッスか!?」
「そんなカップルも結婚出来てしまうそんな世の中なんですよ」

決して言えなかったんです。いつ消えてしまうか分からなかったから。いつ居なくなってしまうか分からなかったから。
けれども今日、ようやく私は覚悟を決められた。
あなたと共に歩む決意を。
だからもう、恐れない。
いつかあなたと居た夜が来なくなっても。
いつかあなたの居ない朝が来たとしても。
私はもう、何も怖くない。

「レオナさん。――お手をどうぞ?」
「まったく、いい。今はお前の手の中で踊っててやるよ」

――だけど、覚悟しておけ。

「お前がその気になったなら、もうオレも容赦しない」
「手加減してくれてたんですか?」
「当たり前だろ」
「二人とも! 早くしてくださいッスよ! じゃないとオレの食うモノなくなるじゃないッスか」
「ラギー……お前、少しは空気を読め」
「食い物に関しては一切読まないッスよ」

はあ、とレオナさんは溜め息を吐くとそのまま私の手を取り、グイッと引き寄せられる。

「うるせぇのも居るし、それじゃあ行くか。花嫁サマ?」
「ふふ、この手をどうか離さないでくださいね。花婿さん?」



春の匂いがする。私たちを祝福する、春の匂い。
そのあたたかさに包まれながら私たちはこれからの新しい人生を歩み始める。
その先には何が待って居るのだろうか?
そんなことを考えながら、見上げた先には新緑の瞳が慈愛の色を持ってこちらを見ていた。
大丈夫。この人が居るなら。きっと大丈夫。
眠れない夜はまたいつか来るかも知れない。
それでも、今日からは独りではないから。



「大好きですよ、レオナさん」



冷たい冬の夜を消し去るように、暖かな新緑の風に包み込まれて。
私は今日も、あなたの腕の中で眠りにつくの。
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