SS 41~60

信じなかった訳ではない。
きっと、最初は信じていた。
それでも信じられなくなったのは、どうしようもなかった事なのだと今は思う。


(……好き、だったんだけどなぁ)


今しがた一方的にだが別れを告げた。
というよりかは恋人が浮気相手だろう女の人と、腕を組んで口元に笑みを浮かべている姿を見てしまったから。

衝動に近い感情で、それでも何処かでこんな日が来ることが分かっていたから。
何年も二人で過ごした家に帰って、荷物を纏めた。


帰って来ない恋人を待つ日がいつからか増えた。
私のものでも恋人のものでもない匂いが、恋人から香る事が増えて。
お互いの誕生日すら祝うことが出来なくなっていたから。


予兆はあったのだ。
だから覚悟もしていた。
浮気をされていた事はずっと前から分かっていた事だったか。


それだけで浮気だと決め付けるのかと思うかも知れない。
けれどそれだけで充分なのだ。
彼の心がまだ私に向いていた時は、ずっと私だけを見ていてくれたから。
大切な記念日は、私以上に張り切ってくれていたから。


浮気をしている所を今日まで見たことも、証拠を家で見付けた事も無かった。

せめてもの情けだったのか。
上手く隠してくれていたのだと、2人で住んでいる家には連れ込まないでくれているのだと。
それだけが私をあの部屋に繋ぎ止めていた。


けれど、もう限界だった。


旅行用バッグを引っ張り出して、必要な物だけを詰め込んだ。
バッグを肩に掛けると、少しだけ迷ってテーブルの上にメモを残す。
そして何年も過ごした家を飛び出した。
行く宛はないけれど。
それでもあの部屋には居たくなかったから。



「好きだったよ」



だから、



――さようなら。



まだ綺麗な思い出のうちに。
あなたとさよならしたいから。


コロン。とメモの横に重石代わりに置いた指輪。
左手の薬指に嵌めてくれた日を、今もまだ覚えてる。
3/20ページ