霊感少女とびびり先輩

 七不思議。
 それは各学校にあるだろう不思議な怪談。
 それを俺はかなり甘く見ていた

 ――結果、今俺は人体模型と全力で鬼ごっこをするハメになっている。

 どうして自他共に認めるびびりが七不思議なんかに関わってしまったのか。
 そのびびりを友人にからかわれた故の出来事だとしか言えない。
 うん。まあ、今は後悔しかしてないけどね!

「つーか早ぇぇぇ! アイツ人体模型だろ!? 何でこんな早ぇんだよ!」

 実は陸上部の、それも部長である俺は足には多少の自信があった。
 そんな俺が息も絶え絶えに全力で走っているにも関わらず、人体模型との距離は狭まるばかりだ。
 関節も何もないだろうに綺麗なフォームを描く人体模型。うん、全く感心する暇は与えてくれない。
 もし人間だったなら勧誘してたかも知れないけど、あんな内臓が半分見えてるやつと一緒に部活動したくない。

「ああ! くっそ!」

 ヤバイヤバイヤバイ。
 早く、もっと早く走らなければ追い付かれる。

 ――皮剥ぎ人体模型。
 人間になりたがるが故に捕まえた人間の皮を剥ぐと噂になっている旧校舎の七不思議の一つ。
 聞いた当初は内心ガクブルと震えながらも笑っていたが、今現在追われている身としてはそんなものに捕まったら最後、噂通りに皮を剥がれてしまうだろう未来がありありと見えて背筋に冷たいものが走った。

「からかわれたからってマジで旧校舎なんか来るんじゃなかった!」

 悔やんでも、もう遅いのだけれど。
 人体模型はすぐそこに迫っているのだから。

「いやはや本当ですよー。ナニやってるんですかー」

「見てわかんねぇのかよ! 追われてんだよ!」

「いやいや、さすがにそれは見たら分かりますけどー」

「じゃあ聞く……な……?」

 ……今、誰と話した?
 聞き間違いでなければとてつもなく聞き覚えがある声だった気がするのだが。
 ふい、と声の方向に顔を向ければヘラヘラと笑っている後輩が居た。

「お前、なんで居んだよ!」

「先輩が部活に出てこなかったんで先輩のご友人を脅……訊いてみたら旧校舎に行ったと親切に教えてくださったので、まさか馬鹿正直にびびりをからかわれたからと言って来てないよなぁ、と思いながら旧校舎に来たら鬼ごっこしてたんでビックリしました」

「節々でなんか不穏な単語が聞こえた気がする」

「気のせいでーす!」

「怒ってるのが分かったから何とかしてください!」

「先輩最近タイム落ちてるんで、良い機会じゃないですか! 人体模型とデッドレースなんてそうそう出来ませんよ! 頑張ってくださーい」

「キレてるな? さてはお前、キレてるな?」

 ヘラヘラと、追われていることなんて気にもしていないように笑う神山は否定をしなかった。
 タイムの話をされて、こいつを陸上部に誘ってマネージャーにしたことを今更ながらに悔やむ。
 やるからには厳しいのだ。まあ、お陰で部員達は引き締まって部活をしてくれているけれども。
 普段通りの神山との、普段通りの会話に、何だか力が抜けてきた。

「今止まると皮、剥がれちゃいますよー」

「おっそろしいことを気軽に言うな!」

 震える足を叱咤して足をひたすら動かす。動かす。動かす。

「いやはやしつこいですねー」

 どれだけ走ったのか分からない。
 疲労と酸欠でもうそろそろ限界が近いし、何より前方は壁。
 ああ、終わった……と悟った時、後輩は至って冷静な声音で呟いた。

「そろそろ疲れてきましたし、先輩と走るのも飽きましたし、壊れて貰っちゃいましょうか?」

 そう言ってブレザーの内ポケットから札のようなモノを取り出すと、前方にある壁に向かって投げ付けた。

「なに、」

 何をしているんだ。
 そう訊こうとして、けれど答えは案外簡単に出た。
 なんと目の前の壁であった所の脇に忽然と階段が現れたのだ。
 なんで? そう思う前に、神山は俺を見て言う。

「先輩はこのまま階段に登っちゃってくださいー」

「は? でもお前は」

「足手まといなんで、登っちゃってくださいー」

「あ、はい」

 もっともなことを言われてしまえば何も言い返すことなんて出来なくて、素直に頷いて階段を駆け登る。
 神山はそのまま壁に向かって走って行った。
 人体模型は階段に登った俺よりも前方を走る後輩を追い掛ける。
 人体模型が目の前を走り去り、後輩は激突するんじゃないかというくらいまで壁に接近した時、ぴたりと足を止めた。
 人体模型はそんな後輩に腕を伸ばす。心なしかニヤリと人体模型が笑った気がした。
 それを待っていたかのように、後輩はくるりと方向転換する。
 突然の行動に 、人体模型は対応出来なかったようで壁に激突した。
 かなりのスピードが出ていた為か、衝突の衝撃で人体模型はバラバラに壊れてしまう。

「さて、終わりましたね」

 にっこりと微笑みながら俺に近寄ってくる後輩。
 その足がついでとばかりに未だピクピクと動こうとしている体から離れた手を踏み壊した。
 その姿を見て、改めてこの後輩は怒らせてはいけない人種なのだと理解した。


「しかしまあ、本当に先輩はお馬鹿さんですねぇ」

「うるせぇ」

「ふふふ。怖がりな癖に自分から怖い思いをしようとするんですもん。お馬鹿さんですよ。私が居て良かったですね? じゃなかったらあと六回も怖い思いをしながら死ぬところでしたよ」

「……は」

「旧校舎の不思議は、七つ。あと六つあるでしょう?」

 私は面倒くさいので、ショートカットで帰りますけど、先輩はどうします?
 こてり、首を傾げながらそう言った後輩に「帰らせてください」と階段で土下座したのは、夏の良い想い出になるだろうよ……。
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