ご主人と吸血鬼

「ご主人」

「ん」

「ごしゅじーん」

「ん」

「聞いてませんね?」

「ん」

生返事しか返さないご主人は今、テレビに映っている真由ちゃんを真剣に見ている。
浮気です。また浮気をしています。
もー!ご主人ったらこんなに可愛い奥さんが居るっていうのに酷いです!

「大好きです」

「ん」

「……ご主人のばーかばーか。構ってくれないと浮気しちゃいますよ」

「ん」

「本当に……まったく」

ご主人は気にも留めないで今良いところらしい場面を見ている。
この前は月曜の九時でしたが、今は土曜の九時です。なんの違いがあるのでしょう?若干コメディーな感じがしますが。

「何が面白いんですか?」

疑問に思っていることを訊いてみた。CMが流れる。

「何が楽しいって、……非日常感を味わえるから?」

「私と結婚している時点で、かなり非日常ですけどね……」

「……ああ、そういやそうだったな」

ご主人がようやくこちらを向いてそう言いました。
今まで気づかなかったんですかご主人!?

「本気で言ってませんよね?」

「さすがにそんなに馬鹿じゃねぇよ」

「……よ、良かったです……」

ほうっと息を吐けば、CMが開け、ご主人はまたテレビに夢中になる。
私は被虐体質ではなかった筈なのですが、私を放置するご主人も大好きだなぁ、と思う。

「ああ、そうだ」

「なんですか?ご主人?」

「もう、浮気するとか言うな。鬱陶しいから」

「酷いですー」

「事実、鬱陶しい」

「もう……」

まあ、私が冗談を言っていると知っているからそんなことを言うのだろうけれども。

「たぶん私は何度も言いますよ」

「お前な……」

「でも正直ご主人以外の男って、ぶっちゃけ蛆虫にしか見えないので浮気とか無理ですよね!」

「……お前の素直さに安心出来ないのはなんでだろうな……」

「何がです?」

ご主人は時々、難しいことを言いますが私の頭を撫でてくれたからそれだけで幸せだなぁと思いました。
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