SS 21~40

恋をすると幸せな気分でいられると思っていた。
なのに実際は辛いことの方が多いような気がする。
千早と一緒に居られる時間は幸せで。今なら死んだって構わないと思うくらいの幸福感に満たされている。
なのに別れ際になればその気持ちは萎んでいって、


「帰らないで」


そう言いそうになるのを握った掌に爪を立てて我慢する。
別に付き合っているのだからと良く言われるけれど、俺の場合はそれ以前の問題で。
どうしたって縋るような言葉や態度になってしまうのだ。
それを女の子がやれば可愛いんだろうし、千早にやられたらもうそれだけで昇天する自信はあるけれど。
ガタイのいい男がやっても何ら面白くもなんとも無いじゃん?
だから彼氏である俺がそんな態度はどうなんだろうって思ってしまうわけで。

しかも千早の外見はふわふわして女の子って感じで凄く可愛いけれど、性格は男よりも男前で困っている人が居たら何も考えずに助けられる子だ。
なのに俺は女々しくてうじうじと悩んで、正直鬱陶しいと思う。

そんな面倒な俺の性格が千早に負担を掛けているのではないのか。
そう不安に思うこと数回。慰めてくれるのは彼女である千早。
もうホント俺と千早が逆だったら完璧だったんじゃないのかと、そんなことを思えば更に落ち込むわけで。


「あのさ。そんなに何回も溜め息吐かれたり暗い顔されると気になってしょうがないんだけど」

「……あ、ごめん」


思考の渦に嵌まって千早と居るのに意識が飛んでいたようだ。
千早は呆れたように腰に手を付き煽り気味に見上げる。
綺麗に整えられた眉は少しだけ不機嫌そうに跳ねていた。


「祥平が何を気にしてるのかくらいは分かるけどさ、」

「…うっ」


やっぱりバレバレだった?
態度に出てたみたいだからそりゃそうか。


「何度も言ったし、これからだって言ったげるけど、私が好きなのは祥平!だからそんなに不安になる必要も意味も無くない?嫌いになるわけないし、なるつもりも今の所は無いんだから」

「……今の所って、いつかはあるってことっ?」


千早の言葉にビクリと震え、半泣きでそう言えば。
千早はケラケラと笑っていた。
でも直ぐに真剣な顔になる。


「そうやって不安になられると此方も本当に好かれてるのか不安になるんだよ?」


「え?千早不安だったの!?」

「うん。まあ分からないようにしてたからね。気付かないのも無理無いけど、……私を不安にしたお仕置きは受けて貰うわよ?」


ニヤリと笑った千早はそう言うと爪先立ちで背伸びをする。その分だけ近付いた顔と顔。
うわっ、と思った時には頬に触れた唇の熱に放心していた。

自分からする分にはなんでも出来たりするけど、千早からされるのは未だに慣れない。
照れて滅多にしてくれないってのもあるけれど、やっぱり慣れない。

口を掌で覆って自分の情けない顔を少しでも見せないようにする。
けれど同時に、千早も俺と同じような不安を抱えていたんだと漸く気付いて。
不思議と胸が暖かくなったし、安心した。
そしてムクムクと沸き上がるのは、やっぱり一緒に居たいという気持ち。


「……ねえ、我が儘言っていい?」

「なぁに?叶えてあげられる範囲なら叶えてあげましょう?」

「あのさ、」


おどけたように言う彼女に笑いながら、


「今日、泊まってってよ」


彼女にされたように頬にキスを落として、ついでに唇にも触れるだけのキスをして。
腰を折って近付いた彼女の瞳を覗き込めば、俺の顔が移っていた。

きっと俺も彼女と同じ顔をしているんだろうなと思いながら内心で笑って。
熱い身体を冷ますように寒い冬の夜道を、俺の家まで手を繋いで歩いた。
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