Another Story

大河の誕生日を祝っていたら零時を回った。
私はいい加減この引っ付き虫をどうにかしようと、背後で私の項に顔を埋めていた大河の方を向いた。
――瞬間、軽いリップ音が響く。

「……なにをするの?」

「んふふー。幸せやなぁ、って」

「あなたの誕生日は過ぎたわよ」

暗に離せと言えば、大河はにっこりと、それはそれは老若男女誰をも魅了するような笑みを浮かべた。

「せやなぁ。でも、俺はまだ一番食いたいもの食べてへんから」

「何を言って……っ!」

言って、気付いた。
ああ、そうだ。
私達は付き合っていて、もちろんそういった行為は何度かしているわけで……。

「ちょ、と……待って。シャワー……」

「ほんなら一緒に入ろか」

「……変態」

「何とでも言ってや」

俺は瑠璃葉と混じり合いたいだけやねんから。

そう言った大河の顔は獣で例えるならば雄でしかなくて。
ぞくりと背筋が震える。
この人に、この雄に、私はこれから良い様にされてしまうのかと。
それに対して抵抗感が無くなったのはいつからか。
拒絶出来なくなったのは、いつからか。

「大河」

「んー?」

シャツを脱いで、上半身裸の大河に対して私は下から覗き込むように見つめる。

「お手柔らかに……私の王子様」

「ふはっ。うん。善処します」









「ところで『王子様』って何なん?」

「……腰が痛い……」

「なぁなぁ!何なん!?めっちゃ嬉しいけどなんやむず痒いわぁ!嬉しいけど!」

「……何でしょうね?」

「あ!はぐらかした!」

「大河、煩い。眠いから、寝かせて……」

「もー。しゃーないなー。今度言ったら聞かせて貰うで!」

そんな言葉を最後に私の意識は微睡みに落ちた。
私が大河にその答えを言う日は来るのだろうか?
不安はあれど、大した事柄でもないから良しとしておきましょうか。
今はただ、この人の腕の中で眠ることが優先だと、そう思ったから。
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