ご主人と吸血鬼

「ごーしゅーじーんー」

「あ?」

「ご主人。いつ言おうか迷ってましたが、その対応、私だから受け止められるんですからね?数十年来の夫婦でも離婚問題になるレベルですからね?」

「安心しろ。お前にしかやってねぇよ」

「私にだけ!嬉しいですご主人!」

「暑い、離れろ。というかクーラー」

その言葉に私は、あ、と思い出す。

「ソレですよ」

「何が?というかクーラー入れろ」

「これ見てください」

私が見せた紙をご主人が見る。

「停電のお知らせ?」

「今日この時間、停電なんですよ」

「……会社に行く」

「え、なんでですかー!折角お仕事一段落してお休みじゃないですか!いちゃいちゃしましょうよぉ!」

「俺は暑いのが苦手だ」

「え、はい。知ってます。寒いのも苦手ですよねー」

「ああ、夏と冬は嫌いと言っても良い。だから会社に行く。会社の空調の効いたフロアで仕事をしていた方がマシだ」

「私の肌、冷たいですよ?」

「はぁ?」

ご主人が不快そうに眉を顰める。
酷いです!いい加減傷付きますよ!

「だから?」

「血をくれたら、触り放題ですよ!」

「……昨日たらふく飲んだろ。俺から」

「だってご主人。昨日めちゃくちゃ激しかったので、食べた気がしませんでしたー。食べられた気ならしましたけど」

あはっと笑う私に、ご主人は眉間に皺を寄せて足を組む。

「俺だって貧血寸前で頑張ったんだから、もう当分はヤらねぇ」

「夫婦が愛を確かめ合う行為をしなかったらもう終わりだって雑誌に書いてありましたよ!」

「変な雑誌を読むな。あー、ほんとあちぃ。……冷蔵庫にスイカあったよな」

「わ、私の食料ですよ?」

「夕方買いに出掛けりゃ良いだろ」

「どうして夕方なんです?今からでも大丈夫ですけど?」

「馬鹿か。この時期の昼間はお前がキツイだろ」

キョトンと私が首を傾げていれば、ご主人が優しい言葉をかけてくれた。
そうなのです。何を隠そう私は吸血鬼。いや、最初っから隠してませんでしたけども。
太陽光が苦手なのです。まあ、浴びても灰になるような低級ではありませんが。

「ご主人が優しい!太陽苦手でごめんなさい……」

「……だから馬鹿なんだよ、吸血鬼」

ご主人は指定席の青色のソファーから立ち上がると冷蔵庫に向かってペタペタと素足で歩いていく。
私はなんとなくその後をついて行った。

「知ってて結婚したんだから謝んな、ばーか」

「……!大好きですご主人!」

「はいはい」

毎日メロメロにさせられて、私はこれ以上ご主人を好きになったらどうなってしまうのだろうと不安になりながら。

それでもどうしようもなく、好きなんです。
もうずっと――昔から。

「ほら、飯食え」

「わぁい!本当に今日はスイカで終わらせる気だぁ……」

「ったりめぇだ」

冷えたスイカを種を避けながらしゃくしゃくと食べる。
ああ、夕方が楽しみだ。
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