不幸体質と霊感少女

本来であればここは神聖な場所なのだろう。
空海さんに「触ってご覧」と言われ触れた場所はただの木の板。
けれども次の瞬間には景色がガラリと変わっていた。
そこには風が巻き起こっていて、金色の長い髪をたなびかせる女の人のぐったりした身体を、黒髪で短髪の男の人がしっかりと支えていた。

「おじさん!おばさん!」

「空海か!お前、どうやって……!?」

「そんなことより、どうして紅羽が呪いなんかに飲まれているんですか……!おばさんも、どうして……」

信じられないものを見るような眼差しでその二人を見る空海さん。
『おじさん』と『おばさん』。そう空海は二人のことを呼んだ。
つまるところあの二人はもしかしなくても……。

「紅羽ちゃんの、ご両親?」

すっとんきょんな声が漏れ出た。
きっとこの場には相応しくない反応だったのかも知れない。
その場に居た人達がオレをじろりと見やる。

「なんだ、その人間は……」

「紅羽の為に連れてきたんですが……、これでは……」

「お前、紅羽の知り合いか?」

「は、はい!はじめまして!オレ……」

名乗ろうとして、名乗れなかったのは。
決してオレが紅羽ちゃんのたぶんお父さんの前でチキン野郎を発揮したわけではなく。

「ひ、ろ……や、さ……にげ、」

「紅羽ちゃん!?え!なんでそんなとこに!?」

声のした方に視線を向ければ、紅羽ちゃんは天井の上に張り付けられていた。

え、と声が漏れ出る。
どうして?と疑問が浮かぶ。

なんで、どうして。
最強の女の子が、なんで。

「どうして、泣いてるの……?」

いつもは楽しそうに歪めている真っ赤な紅葉のような瞳は何も映さず、その代わり涙をぼろぼろと零していた。
まるで幼い子供のようなその姿。
そんな姿は見たことがない。
こんな弱々しい紅羽ちゃんなんて知らない。
何より、誰が泣かせているのだ。彼女のことを。

「オレの……オレの大事な女の子を泣かせた奴は誰だ!出てこい!」

『お前さん。ちぃとばかし五月蠅いぞ』

「……っ!」

其れは虚勢を張っていたオレの心を簡単に折れる程にはおぞましい声だった。
其れはオレの目の前で逆さまになりながらオレの瞳を覗き込んでいた。
漆黒といっても過言ではないような瞳には瞳孔がなく、墨汁を垂らしたような髪の毛はふわりと跳ねている。

ドッと心臓が鳴り出す。バクバクと鳴り響く心臓の音が鼓膜を破るのではないのかと言う程に五月蠅い。
息が浅くなるのを感じた。
何も映していないような漆黒の瞳はあまりに暗闇を映し過ぎていて本当にオレを視ているのかすら分からない。

『おお、……お前さん。何かと思えば儂の宿主ではないか』

「や、ど……ぬし……?」

『そうだそうだ。儂はお前さんのナカに居った。儂の残滓が残っているではないか。ふ、はは。なかなかにその人生は苦痛であっただろう?』

目の前の男か女かも分からないモノの声が理解できない。
オレは、なんだって?
こいつの、この、紅羽ちゃんの身体を捕えて離さないこんな奴は知らない。

「し、らない……おまえ、だれ、だ」

苦しいながらも声を出す。
目の前に居る奴は一瞬目を見張って。
そうしてにんまりと嗤った。

『儂はな、遥かむかしに捨てられた社の神だ。神と言っても幾通りもある。その中で儂は――不幸を呼びよせる神として名を馳せた』

「ふ、こう?」

『ああ、そうだ。そうして――』

それは何処か聞き覚えがあって。
それは何処か嫌な予感がした。

『儂は、お前の母親に乞い願われてお前のナカに居ったんじゃよ』
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