不幸体質と霊感少女

誰だって、幸せな夢は見ていたいものでして。
つらい夢なんて見ていたくはなくて。
だってそうでしょう。誰が好き好んで、つらい方を選ぶと言うんですか。
ここはたぶんわたしの精神世界だなぁ、と気付いたのは少ししてから。
お父さんとお母さんが二人一緒に幸せそうに微笑んでいた。
その中心には赤子。ゆるく目が開く。その瞳はあまりに鮮やかな――紅。
紅い瞳を持って生まれたから『紅羽』と名付けたのよ、と母は嬉しそうに笑っていたのを今でも覚えている。
母親の瞳の色とも、父親の瞳の色とも違うその『紅い色』は、両親ともに祝福と言う名の呪いを受けているからだろうか?

母親は神から賜りし『神嫁』という祝福を。
父親は怨霊から『呪詛』という呪いを。

どうしてそうなったのか、視ようと思えば過去でも視れた。一ヶ月違いで生まれた空海から「それはきっとしてはいけないことだよ」と諭されたから、しなかったけれども。
一ヶ月、空海の方が先に生まれている。
わたしの肉体は高校生の辺りで時間が止まって、五十年になる。
普通に過ごしていればそこそこのマダムだろう。
でもわたしの肉体は年を取らない。
それが、わたしが生まれた時にこの世界から課せられた業。
それでも良かった。
大好きなお父さんとお母さんが居たから。決してわたしより先に死んでしまわないと知っていたから。

でも、時折思う。

もしもわたしが霊感も神力もない、寿命のある普通の女の子だったなら。
普通に友達を作って、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子供を生んで、普通に死んだのだろうかと。
そんな普通を夢想しては、今の自分を見つめる。
これで良かったのだと納得をする。した気になる。
今あるものを大切にしなくては、それこそ罰当たりな気したから。

でも、ダメだね。
広也さんに出逢ってからわたしはなんだかおかしいんだ。
広也さんが他の女の子と居るとすごく胸が苦しくなるし、広也さんが「紅羽ちゃん」とわたしの名前を呼んでくれると、すごく嬉しくなる。
きっとこれが恋なのだと気付いたけれども、わたしには広也さんに恋する権利も資格もない。

だってわたしは、広也さんと同じ時間を生きられないから。

広也さんにそんなことを告げたら困らせてしまうから。
だからそっと胸のうちに秘めておこう。
そうしていつか広也さんが死んだ時にでも告げてしまおう。
それまでこの関係が続いているかは、分からないけれども。
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