SS 161~

運命なのか。必然だったのか。
私がその男に出逢った理由なんぞ、どうでも良かった。
どう足掻いても私はこの男に殺される運命なのだ。
どうでもよくなるというものだろう?
なのに、どうして……。

「きみが、死ぬ運命を僕は受け入れない」

強い言葉と共に、魔法が放たれる。
『魔王』だけが放つことが出来る、すべてを無に消す魔法をどうして『勇者』であるお前が……。
そう言えば、男はへらりと笑って答えた。

「きみを消し去るものは、例え神でも許せなかった。それだけだよ」

「……神に、逆らったというのか」

この世界の理に干渉し、そうして其れを壊したと。

「お前は、分かっていないのか?分からないのか?この世界の平和は、私ひとりの命で済んだのだぞ?」

「きみ以外の命に、僕はあまり興味がないものでね」

どうやったらこの世界の消滅を止められるだろう。すべての命を助けられるだろう。
そんなことを考えながら、私は必死になって『勇者』を説得する。
これでは、まるで立場が逆ではないか。
どうしてこんなことになってしまったのだ。どうして……。

「僕はさぁ、誰でもない。きみに生きていて欲しいんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、嗚呼、と心が悲鳴を上げたのが分かった。
引き裂かれそうな程に痛んだのが分かった。
生まれた時から死ぬ運命であった。『魔王』とはそういうもので、それが世界の理。
だから私に「生きていて欲しい」などと、そんなことを言ってくれる相手は居なかった。
なのに。それなのに。この男は当たり前のことのように、言うのだ。

『勇者』のくせに。
『魔王』の私に向かって。
平然と「生きろ」と。

ぼたぼたと涙があふれてきた。
生まれてからずっと、生きていていいのだと認められる瞬間が来るとは思わなかったのだから、当然か。

「勇者よ……」

「なぁに?魔王」

「私はお前が嫌いだ」

「それはそうだろうけど」

「でも、ありがとう」

「魔王?」

「私は、お前こそ生きるに値する人間だと思っている」

「何言って?やめて、魔王。それだけは……っ!」

今まで平静な顔色をしていた勇者は焦ったような声を発する。
私は小さく笑い、そうして『魔王』として神より賜りし力を放出する。

「ありがとう」

願ってくれてありがとう。
私に生きていて良いのだと言ってくれてありがとう。
お陰で私は、私の役割を果たせた。

魔王としての役割。
それは、悪であること。
すべての悪の根源であること。

だから、この世界を壊して無に帰そうとしている勇者よりも早く、この世界を壊せばいいだけのこと。
要は悪の塗り替えというやつだ。
少しばかり混乱は残るだろうが、私は今まで散々な目に合ってきたのだ。
少し、そう。少しばかり休ませてくれ。




魔王は死に、世界に平和が戻っても。

「どうして……」

それを悲しむことは、誰にも出来ないのだ。
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