黒バス

「ずっとテツヤと二人きり、一緒に居られたならそれはどれだけ幸せなんだろうね」

休日の部活の無い日。赤司くんの家に行き赤司くんの自室で2人して読書をしていた時に言われた言葉。
色気の欠片もないその空間だが、僕も赤司くんも二人きりで居られる事が重要なのだと考えるタイプ同士だからか、対して疑問も不満もない。
いや。そんなことは今は部屋の片隅に置いておくとして。
赤司くんの言葉を頭の中で反芻して、その言葉の意味を理解した瞬間。
無性に笑いたくなった。

「赤司くんらしくない言葉ですね?」

そう言ったのは別に、ロマンチックな事を突然言い出した赤司くんを貶した訳じゃなく。
ただ、赤司くんにしては珍しく、弱気とも取れる発言をしたなと思ったら不思議と笑いたくなってしまっただけだ。と、言っても。
僕の表情筋は常に職務放棄をしているから僕の表情の変化に気付くのなんて、赤司くんくらいだ。
今はその赤司くんに一番知られたくないのだが、彼と2人で居るこの空間では誤魔化すことも出来ないだろう。
そもそも赤司くんに隠し事をしようとしたって、隠し切れるだなんて無理だろうから、誤魔化そうと思うことすら無駄なのだろうけど。

ほら、今だって。
いくら見ていても飽きたらないほど綺麗な顔の眉間に不機嫌だと皺が刻まれている。

「お前が笑い出したくなるくらい、今の言葉は僕らしくなかったか?それとも僕と二人で居る気はないと言う意思表示か何かか?」

普段は滅多に声の調子を変えない彼らしくない、不機嫌だと一発で分かる声。「テツヤ」と追い討ちを掛けるように名前を呼ばれたので、苦笑混じりに「まさか」と返す。

「僕だって叶うのなら、君と二人。ずっと一緒に居たいと思っていますよ」

文字を追っていた目線を赤司くんに合わせて、表情筋を叱咤して微笑みながらそう言えば。
「ならそんな態度を取るな」と拗ねた口調で言われた。「不安になるだろう」と。
赤司くんとお付き合いをする前の僕だったなら、きっと。赤司くんのこんな姿を見ただけで「明日は鋏が降りそうですね」なんて、冗談が苦手な僕が冗談を言っていしまうくらいには驚いただろう。
そんなことを思って苦笑する。
それを敏感に感じ取ったのだろう、赤司くんがピクリと眉を跳ねさせた。

「すみません。でもそんな風に弱気な赤司くんを見るのがどうも新鮮で」

「人が悩んでいるというのに、まったくお前は」

「おや。嫌いになりましたか?」

「なれないから困っているんだよ」

軽口の応酬をしている間に赤司くんは普段の調子を取り戻したようだ。
優しい手つきで僕の髪を梳きながら、髪に口付けられる。

「擽ったいです」

「我慢しろ」

そんな他愛もない会話をして笑い合い、視線が交われば自然と唇は重なった。

泣きたくなる程のこの幸せは、一体いつまで続くのだろう。
いつまでもずっと、続いていけばいいのに。
それが叶わないものなのだと分かってはいても、願わずにはいられない。


だからどうかその日までは、


(君と過ごす幸せな時間を、僕に下さい)
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