SS 01~20

中学の後輩である彼は何が気に入ったのか特に取り柄があるわけでもない。
これを言うと友人は何故か微妙な顔をするが、自分に懐いた。


全く意味が分からない。


「センパーイ!」
「な ぜ こ こ に 居 る」


いやほんと。意味が分からないよ。
ここがどこだか分かってるのかな?
3年生の教室だよ?
まあ百歩譲ってそれはいい。諦めた。だけど今は何の時間かな?


「数学ですかね?」


そうだね数学の時間だね。
君のクラスが。
というか何故言いたいことが分かった……っ!?
いややっぱり良いです。言わないで。怖いから。

ちなみにウチのクラスは自習だからこんな風に喋っていても問題は全くない。訳ではない。でも周りは誰も目を合わせてくれないんだ。
でも分かってるいるのかな?


「君のクラスはここじゃない。真向かいに建ってる棟だった筈だが」

「知ってますよ?先輩を見付けてから入学する前に何度も来てますし。地図はバッチリ頭ん中入ってます!」

「……。分かってるなら何故来たし」


後半は聞かなかったことにした。
我ながら賢明な判断だと思う。


「先輩に会いたくて」

「教室に帰れ。いや、地中に還ろう?」

「先輩が一緒だったら全然いいですよ?むしろ大歓迎!」


ナニが?
いや、聞きませんよ?声に出してなんてそんな恐ろしい。
絶対に頭が痛くなる言葉が返ってくるに決まってる。


「まあ何でもいいや」


後輩に付き纏わられるなんて今に始まったことじゃないし。
正直考えるの面倒くさい。
ただこれだけは言わせて欲しい。


「……そのズボンから見え隠れするそれはなんだ?」

「これですか?先輩を尾行していた時に撮ったベストショットですが」

「……君曰く、愛の成す技とか言う奴か?」

「ええもちろん!先輩の日々を余すことなく写真に収める……っ!俺の生き甲斐ですから!」


中学時代に散々聞いた「愛の成せる力」とやらは万能らしい。
それで大抵のことが彼の中では正当化するから。

そう、例え不法侵入した部屋に盗聴機や小型カメラを仕込んでも。
毎日朝昼晩と、付かず離れずな生活を送っても。
いっそ堂々と女子トイレに入ってきても。
彼の中では「愛故に当然の行動」らしい。

その言い分の意味が分からなすぎて考えることを放棄した人間がかなり居たことは言うべきか…。
つまり何が言いたいかと言えば。
この後輩は、常識的なことがすっぽ抜けている。しかも何故か自分が関わった事のみ。


「堂々とした盗撮発言をありがとう。地中に埋もれて死んでくれ」

「先輩のツンデレ頂きましたぁぁぁぁぁ!」

「誰かこの後輩にツンデレの概念を教えてあげてー!」

「先輩が声張り上げてるとか超レアっ!?」

「さりげなく●RECするな。てかそのビデオカメラどこから取り出し……いや良い聞きたくない」


制服のポケットが自分の隠し撮り写真で埋め尽くされているのは先程後輩が自分に見せる為に取り出したから知っている。

だから手の中に収まるようなビデオカメラだとしても隠し持つ場所なんて皆無だろうに…。
というかなんだ。制服のポケット一杯の写真って。
冷静に考えればナニソレ。状態だ。なんだこれ。
しかも聞いた話によれば後輩の部屋の壁一面に自分の写真が貼られているらしいし……自分で言っていながらかなり気持ち悪い状態だな。


「大体。四方八方に顔があって…寝にくくないのか?」

「先輩に見られてないと眠れないんです!」


後輩は力強くそう宣言して、けれど後輩はビデオカメラ片手に携帯で写メを撮ることに精を出していた。
何とも器用なものだな。といっそ感心する。
それと同時に眠れないなら仕方がないな。とも。


「睡眠は生活を送る為には大切だからな。眠れないなら仕方ない」

「それはいくらでも撮って良いってことですかありがとうございます!」


キラキラと星でも撒き散らしそうな顔でその両手に納められた撮影機器を酷使する後輩に、コクンと頷く。
絶叫のような歓喜の悲鳴が上がったが、もう誰も何も言わない。
それがこの一月で学んだ、自己防衛手段だからだ。


そんな中。きっと一番の被害者は巻き込まれた挙げ句に受験も間近なクラスメート達である。
そしてその心は一様にして一致していた。


「「「何このカオス!?てかそこじゃねぇだろ!」」」



それは後輩からのストーカーに悩む同輩を哀れんだ最後の瞬間であり。
同輩がそのストーカー同様、かなり変わった思考回路を持っていたと涙した日でもあった。
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