SS 161~

其れはきっと、紛れもなく恋だった。

「いやぁ、暑いねぇ」

「世界がか?それともお前のダーリンがか?」

「あっは。どっちも」

「まあ、こんな真夏にあんなお熱い行為されちゃあな」

「え、まさか私のこと心配してくれてる?」

「笑止」

「なんか馬鹿にされたわー。いやー、今から身投げしたいレベルで傷付いたわー」

「一切傷付いてない人間のセリフだな。涙目なくせに」

「うるさいなぁ……、私はね?結構これでもあの粗チンのことは気にも留めてないんだよ。そのつもりだったんだよ」

「王子様と名高いあの人のことを粗チン呼ばわりまじ笑うわ」

「いくらでも笑ってあげたら」

もう私には関係ないんだから。私だって同罪なんだから。

「やられたらやり返す。それが私の主義だよ」

「だからって俺に抱かれてりゃあ、俺の命の危機なんだけどね」

「アイツが私にこの程度で興味関心抱くとは思ってないから」

「ふぅん」

じゃあ、なんでそんな必死なのかねぇ?

「アイツ程度の人間に心を壊されるくらいなら、私が自分から壊れた方がマシよ」

「そういうもんかねぇ」

「そういうものね」

「まあ、俺は可愛い子を頂けてラッキーなくらいなんだけどね」

「だったら早く、」

「まあまあ、そんな焦るなって」

お前の王子様はどれだけ願っても来ないんだからさ。
そう言ったなら、彼女は苦しそうに眉間に皺を寄せた。
そんな顔するくらいなら、こんなことしなければいいのに。
思うけれども、俺は優しくないので決して言ってやらない。
俺が欲しくて欲しくて堪らなかったモノを手に入れておいて、捨てるでもなく、ただ嫉妬の炎に身を焼かせる彼女を見て嘲笑う『王子様』はここには来ない。
アイツは俺のこと嫌ってるからね。俺の縄張りには入ってこない。
彼女もそれを知っているのか、いないのか。
まあ、どうでも良いか。
彼女の身体をゆっくりとほどきながら、俺は優しく優しく、彼女に愛を囁いた。

其れは確かに、彼女に対しての恋慕だった。
恋しくて恋しくて堪らないこの心を埋められるのも彼女だけだった。

これはただひたすらに、俺だけのハッピーエンド。
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