SS 121~140

冬の綺麗に晴れた日。

きみは死んだ。
事故死だった。

その事をはじめて聞いた僕の瞳からは微塵も涙は零れなかった。
葬儀の最中、啜り泣くクラスメイトや親御さんを見ながら、どうして泣けないんだろう?と首を傾げていたのはきっと僕だけだろう。

僕達の関係は秘密だったね。
きみと僕は生徒会長と風紀委員長だったから。
色々と対立することもあったし、内緒にした方が良いだろうと、二人で話し合ったね。

思い出せるのは、いつだって泣き顔。
笑った顔はもう思い出せないくらい遠く昔。
僕が浮気をはじめるまでは、いや、きみと付き合う前までは確かに見ていた筈なのに。
僕はその笑顔が好きだった筈なのに。


目を瞑って、思い浮かぶのはいつだって大きな目が溶けてしまうのではないかというくらいぼろぼろと涙を零すきみの姿で。


それは最期に会った日の、きみで。


あの日僕はきみの誕生日をすっぽかして他の女を抱いていた。
抱き終わってさっさと女を家から追い出した後に気付いたのだ。
今日はきみの誕生日だったと。
僕はゾッとした。
何せ僕はきみが好きだから。
過去形ではなく、本当に好きだから。
プレゼントも用意したし、デートプランも考えていたのに。
久し振りに「デートしよ?」と誘ったら、驚いた顔をした後に微かに嬉しそうに口元を綻ばせたあと「破ったら許しませんよ」と厳しめに言われていたのに。
そんな戯れのようなやりとりが、あまりに幸せだった。


僕はきみを試すように何度も浮気を繰り返してしまったけれども。
それは何の免罪符にもなりはしないのは分かりきっているけれども。


「ねぇ、痛かった?」


校舎の屋上で空に昇ってしまったきみに問う。
物理的な痛みではない。
心の痛みというのであろうか。
僕に浮気をされて、きみの心は痛んだ?
だから泣いていたんだよね?


だから――きみは誕生日の日に死んでしまったんだよね。


薄々きみが来ていることに勘づいていたくせに。
気持ちのいいことをやめなかった僕はきっと地獄行きだね。
きみは優しい子だから、きっと天国に行ったかな?


どちらにせよ、もう会えない。
会えないんだね。


ぼろり、その時はじめて涙が零れた。
あとはなし崩しにぼろぼろと頬を伝って、終いには鼻水まで出てきて。噛み殺そうとしても嗚咽が止まらなくて。

そう言えば僕、セフレには簡単に愛を囁いていたくせに、きみにだけは言わなかったね?


ねぇ?僕はきっと地獄行きだけれども。
それでも僕にチャンスをくれると言うのなら。
僕と共に、地獄に堕ちてくれますか?



「あいしてるよ」



それだけ言うと僕は何の迷いもなく冬の空の中に飛び込んだ。
その空はきみが死んだ日と同じ。
晴れ渡った空だった。
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