ご主人と吸血鬼

「ごしゅじーん!血をください!」

「はいはい。風呂入ったらな」

「じゃあ待って、」

「一緒に入るぞ」

「イーヤーでーすー!」

「お前はいい加減に風呂嫌いを直せ」

「ちゃんとシャワーは浴びてるから汚くないですよ!」

「水でだろ?お湯を浴びろ馬鹿が」

「イーヤー!」

足に力を入れて踏ん張ってはみたけれども、ご主人は軽々と私を持ち上げてしまったのでまったく意味はない。
嫌だ嫌だと騒ぐ私を完璧にスルーしながら、苦手な暖かいお湯で身体と髪を洗われてしまった。
その丁寧な手付きにうっとりとしてしまうものの、やはりお湯は苦手です。
湯船に浸かるのは許してくれたけれども、それにしたって酷い!

「お前、ヤッた後に風呂に入るのは平気なくせになんで普通に風呂は入れないわけ?」

「それは!気を失っているからこそ出来ることです!」

「じゃあ、今から気ぃ失うか?」

挑発するように抱き締めてきたご主人に、むぅ、と唇を尖らせて。
私はその首筋に牙を突き立てた。

「……ん、はぁ」

「……っ」

吸いすぎないように加減しながら命を吸い上げる。
挑発に乗ったせいか、いつもより多く吸ってしまった。
そのせいでご主人は貧血で倒れてしまい、申し訳ないことをしたなぁと微かに思わないでもないけれど。

嫌がってるのに暖かいお風呂に入れるご主人が悪いです!と喚く。
貧血でソファーに横になっているご主人は「うるさい」と機嫌悪そうに怒った。

「酷いです、ご主人」

「……酷いのはどっちだ」

「あったかいお湯は苦手だって言ってるのに」

「それは……お前に風邪でも引かれたら困るんだよ」

「ご主人?何言ってるんです?私は化け物だから風邪なんて引きませんよ?」

きょとんとした顔でそう言ったなら、ご主人はぐったりとした表情のままに私を睨み付けて。

「つぎ、」

「はい?」

「次、自分のことを化け物なんて呼びやがったらヤり殺すぞ」

「それは普通にいやです!」

「だったら、言うな」

「でもホントのことですし」

「お前は俺のなんだ?」

「え?……お、奥さん……です」

「変なところで照れるな」

「だってぇ」

だからだよ。
そう言ったご主人はだるそうに腕を上げて私の頭を撫でる。

「意味が分からないです。あ、でももっと撫でてください!」

「うるさい。理由くらい自分で考えろ。それと……三十分黙ってろ」

「はぁい」

余程辛いのか目を瞑ってそう言ったご主人は軽く眠りについた。
私はご主人に言われた通り三十分間、ご主人に言われた言葉の意味を黙って考える。
結局、三十分経っても分からなかった。
けれどご主人はもう怒っていないのかうんと甘やかしてくれたので私はご主人の言葉をスッカリ忘れてしまった。
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