SS 121~140

好きだと気づいた時にはもう遅く。
僕は彼女の首に手をかけた後だった。
くたり、と力なくベッドの上で肢体を投げ出す彼女の蒼白い顔。

ああ。嗚呼。
きっかけはなんだったか?

そうだ。彼女が僕と別れたいと、そう言ったから。

僕から愛情を感じられないと、そう言ったから。
僕はこんなにも、嗚呼。こんなにもーー

「どうして……」

動かない彼女。
その頬に手をあてがい滑らせる。涙の痕が残っていた。

それはどんな感情だったのか?
恨み?憎しみ?
きっと綺麗な感情では無かっただろう。
別れたがっていた相手に殺されたのだから。
殺された。そうだ。僕は彼女を殺した。殺したんだ。この手で。この指で。


「は、ハハハハハハハ」

笑いが少しずつ大きくなっていく。
部屋の壁に吸収されるその笑い声は、狂ったように長く続き、僕は「は、」と真顔になった。

「いかなきゃ」

彼女が逃げていかないように、追い掛けなければ。
僕は腰を曲げたままの体勢を更に屈め、その紫に変色した唇に口付けて、暴れた際に乱れた髪を綺麗に整える。

「僕、きみをちゃんとあいしてたんだ」

魚のように開いた目を見て、舌っ足らずな言葉で紡ぐ。

好きだと気づいた時にはもう遅く。
愛していると伝えるには、あまりに遅すぎた。

だから今から伝えに行くよ。
君の元まで、愛している、と。
そう伝える為に。

僕は微笑み、ふらりと立ち上がると君と二人きりの世界に行ける場所に行くための手段を求めてキッチンに向かった。

痛かった?
苦しかった?

僕もだよ。
僕も君に「嫌い」だと言われて痛かった。苦しかった。

でも、大丈夫。
君に会ったら、きっとこの痛みは無くなるんだから。
ねぇ?君だってそうだろう?
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