SS 101~120

ここは神の住まう天国。天の遊郭。
私はここでもう何百年と客を取っている。
ここで働くのは堕天し損ねた天使のみ。『神の御慈悲』と言われているが、私は堕天した方がマシだと思っている。

「ヴィオレッタ」

名を呼ばれて重い着物の裾を引き摺りながら客の元へと向かう。
嗚呼、今宵はどんな客が私のところに来るのだろう。楽な客だと良いな。


「久し振りだね?ヴィオレッタ」

「……今宵は侯爵様でしたか」


訪れた客は良く私を買ってくれる魔界の侯爵。


「――ねぇ、ヴィオレッタ?」


酒を注いで隣に侍っている時に不意に声を掛けられた。


「ここが好き?」

「……っ、……」

「ふふ。不服そうだね」


だったら俺がヴィオレッタを買ってあげる。お前は気に入っているしね。


にこりと微笑んだ悪魔はそのまま私の身体を抱え、店主の元へと向かう。
店主と侯爵様のやり取りを何処か夢見心地で見ていた。
地獄のような数百年だった。それがこれからどうなるのか。
上機嫌な侯爵様の腕の中で、所詮私は堕天し損ねた穢れた天使。
これから堕天の烙印を押されて、どう生きていくのか。
それをぼんやりと考えた。


「ヴィオレッタ。何も考えなくていい。俺の元で笑っていてよ」


壊れるまでね?


侯爵様の言葉に、嗚呼私にはもう自由はないのだと、数百年振りに涙が零れた。
地獄は相も変わらず、変わらないようだ。
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