刀さに短編集

「鶴丸はどうして私を選んでくれたの?」

そう問えば、鶴丸は困ったように頭を掻きながら言う。

「おいおい、俺がきみを選ぶのに理由なんぞ要るのかい?」
「そうねぇ、理由は欲しいわね」

これから死に逝くせめてもの願いだわ。
そう言えば鶴丸は哀しそうに微笑んだ。
私は病で死ぬ。体が弱いのに審神者になった、これは罰なのだろう。
鶴という名が着くだけ会って、真白い神様にひと目で落ちて、そうして貴方に逢いたいが為に審神者になった。
これはきっと、その執着が生んだ成れの果て。

「俺はなァ、主。なんでも良かったんだ。きみに想って貰えるのなら、なんでも。何をしても、良かったんだ」
「鶴丸?」
「なぁ、きみ。……死なないでくれ」

切なそうに言うものだから、私もそうしてあげたかった。
だけども、時はすぐそこに来ているかのように肺が重い。
私は間違いなく、死ぬのだ。

「きっと、神様を愛したせいね」

自嘲気味にそう言えば、鶴丸は何かを思いついたかのようにハッとした顔をする。

「そうか。何をしてでもきみを……」
「どうしたの? つるま、……!?」

時間が歪む。時空がねじ曲がる。
まるでそう、これは……私達が戦ってきた『時間遡行軍』と同じ気配。同じにおい。

「待ちなさい! 鶴丸国永!」

呼んで、返ってくる言葉はない。
鶴丸はその目に狂気を宿したまま姿を変えていく。
それはダメ、そうなってはダメ!
そうは思うのに、鶴丸は自我をどんどん失っていくようにその輝く金の瞳を濁らせていく。

「鶴丸!」

叫んだら、口から紅い血が零れた。ゴホッゴホッと咳をしながら這いずって鶴丸に、愛しい恋刀にすがろうとする。
けれども恋しい刀はその体を既に保てなくなってきているようだ。
段々と異形の姿へ変化する鶴丸に、涙が零れてきた。

「つるまる……っ!」
『あ、るじ……おれは……』

ようやく問い掛けに応じた鶴丸。まだ自我が残っていることに安堵したものの、その次の瞬間、絶望へと叩き落とされた。

『あ、ああああああああぁぁぁ』

雄叫びを上げる鶴丸は、否、鶴丸だったモノは、私に本体である刀を振り下ろそうとした。

「……っ」

痛みを、与えられる死を、受け入れるかのように目を瞑ろうとした。
けれどその痛みは、死は、降りかかることは無かった。

「……ぁ、おお、くりから?」
「……」
「どうして、鶴丸は……」
「死にたくないのなら、分かっているだろう」
「私、は……」

分かっている?何を?
言われた意味を脳が理解できなくて、グルグルとする。

「生きろ。それが、俺たちの願いだ」
「わた、しは……」

涙がぼろりと零れ落ちた。紅い血と混ざりあって、綺麗なものと汚いものが混じりあって、まるで今の私達のようね?なんて、笑えたなら良かったのに。

きっとこれが、この本丸のはじまり。
自害しないように自我を奪い、『時間遡行軍』として戦う私達の、はじまり。


「刀剣男士を、殲滅せよ」


異形の姿を持った私の愛しい神様達は、言葉を知らないかのように主たる私に深々と頭を下げる。
祈っても、願っても、もう元には戻らない。
あの暖かな日常には、戻らない。
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