Another Story

「私、あなたのことが嫌いだったわ」

「え、ナニソレ初耳」

「初めて言ったもの」

そう言いながら青いマグカップを持った自分の白い手を見つめる。
マグカップの中には彼が淹れてくれた苦いコーヒー。
甘いものが得意ではない私に合わせて作られたそのコーヒーに口を付ければ、ほっと息を吐く。
理由を知りたそうな彼を見て、やはり言わなければ良かったわ、と少し後悔しながら私は口を開いた。

「あなた、キラキラしているんだもの」

目立つのは嫌だった。
だからあなたが私を好きだと追い回してきた時には明確に拒絶をした。
当然の行動でしょう?
そう言えば彼は「でも、」と口を開ける。

「どうして瑠璃葉は俺の想いに応えてくれたん?」

「あなたがしつこかったからよ」

「えー」

「それしか理由がないわ」

「でも目立つのは嫌やったんやろ?」

「ええ、今も言ってしまえば嫌ね」

「なら尚更やわ」

「何が?」

含みを持ったような彼の笑み。
私はきょとりと首を傾げて見せた。

「瑠璃葉が俺のこと好きになったから、だから嫌でも付き合ってくれたんやろ」

「そうなのかしらね?」

「絶対そうやわ」

「なんだか懐柔されている気がするわ」

そう言いながら、私はまたこくりとコーヒーを一口飲んだ。
彼には言ったことはないし、言うつもりも今のところはないけれども。
私はコーヒーよりも紅茶の方が遥かに好きだし、正直彼が淹れてくれたコーヒーはあまり美味しくはない。
それでも一滴も残さず飲む私を褒めて欲しいものだわ、とも思う。

これが愛情だと言うのであれば、私は確かに彼を好きなのかも知れないわね。
そんなことを思いながら過ごす、休日のひと時。
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